そういう真相をつかんだフォイルは空軍基地にレックスを訪ねて問い詰めて、自供を引き出した。フォイルは警察への動向を求めたが、おりしもそのとき来襲してきたドイツ空軍を迎撃するためにエースパイロットのレックスは出撃しなければならなかった。
フォイルは仕方なく、連行を諦めた。
「必ず帰還してから出頭する」というレックスの約束を信じることにしたのだ。
しかし、空戦でレックスは敵戦闘機の銃撃を受けて死んでしまった。
アンドリュウの目撃談によれば、被弾したレックスのスピットファイアは火を噴き、墜落していったという。これまでなら、レックスは脱出してパラシュートで降下して生還してきたのだが、そのときは被弾したときに死んでいたか、意識を失っていたのだろうとアンドリュウは判断していた。
だが、フォイルはレックスがコニーの死の責任を負うために燃えながら墜落していく戦闘機と運命をともにしたのだと確信した。
ブリテン空軍はまたもや優秀な戦闘機乗りを失った。これまでアンドリュウの相棒として互いに命を助け合った戦友が、自殺ともさえ言えるような仕方で戦死してしまったのだ。
ところで、ブリテン空軍のエースパイロットたちの多くは、レックスのような立場ではなくても、いずれドイツ軍機との空戦で戦死することが運命づけられていたようだ。
ドイツ空軍の執拗な空爆はこの年、1940年の秋まで続いた。優秀なパイロットは空爆のたびに過酷な迎撃任務を課され続けて、十分な休息をとる暇がなかった。消耗を強いられる空戦の連続は、彼らの体力、注意力、集中力を奪ったから、空戦中のわずかな判断ミスやタイミング・ロスで被弾してしまうのだった。
そういう過酷なパイロットの運命は、映画『空軍大戦略』で克明に描かれている。
レックスは戦争が終われば、コニーと結婚しようと決めていた。そして、彼女の子どもを自分の子として認知し、育てるつもりだった。仮そめの結婚、仮そめの家庭を築きながら、人知れずアンドリュウを慕うという関係を続けようと考えていたようだ。ブリテンのエリート階層には、そういう家庭を営む同性愛者が多かったという。
とはいえ、「ノーマルな女性」のコニーにはそういう関係や家庭は耐えられない苦痛かもしれなかった。
コニーはレックスが持っていたアンドリュウの写真を盗み出し手帳に挟んでおいて、それをレックスを脅して恋人としての関係を続け、結婚を迫るための手段として利用しようとしていたらしい。
レックスが撃墜王となったのは、彼自身、同性愛者を異常者と見なす当時の通常の規範意識を共有しているがゆえに自らを恥じていて、生き続けることに苦痛を感じていたため、死を恐れない空戦に挑み続けたからではなかろうか。もちろん、天才的なセンスと身体能力、動体視力などがあったうえでのことだが。
そして、ドイツ空軍との戦闘で愛するアンドリュウの背後を守ることを何よりも誇りに思っていたのだろう。
フォイルはアンドリュウとレックスの思い出を語り合ったが、その面持ちは沈痛だった。