フォイルたちは、ベネット自身あるいは従業員がガノンと結託して燃料の盗み取りをおこなっているものと踏んだ。しかし、その証拠をつかむためには潜入捜査員を会社に潜り込ませるしかない。
警察署でフォイルとミルナーが潜入捜査員の人選に悩んでいると、サマンサが強引に立候補してきた。フォイルは気が進まなかったが、サマンサが押し切った。
仕方なくフォイルは、毎日1回はミルナー巡査部長に報告を入れること、危険な行動を避けること、危険を察知したらただちに撤退することを条件として、サマンサが配燃料配送トラックの運転手としてベネットの会社に勤務することを認めた。
さて、マイケル・ベネットの会社で輸送業務を担うのは全員が若い女性だった。若い女性たちが働く姿――ことにそのお尻――を眺めてマイケルは鼻の下を伸ばしていた。だが、彼の妻で経理や書類管理を担当しているパメラは、そんな夫の振る舞いが気にまったく入らなかった。
サマンサは配送業務見習い(助手)としてコニー・デュワーと組むことになった。配送先の場所と輸送経路、燃料の注入方法などを覚えたら、自立した運転手として配給業務を任されることになるはずだった。
サマンサは燃料の配給の仕組みを調べてフォイルたちに報告した。
ベネットの会社の貯蔵施設には一定期間ごとに相当量の燃料が蓄えられ、配給に際しては、管理局の配給指示伝票――配給日、配給先、分量が厳格に記載――が専門の係官によって会社に届けられる。その指示伝票にもとづいて、トラックのタンクに指定分量の燃料を注入し、指定日に配給先を何件か回って、指定量をタンクに移し、配給先から確認署名を受けることになっている。
トラックへの積み込み時、配給先ごとの注入量、タンクの残量を点検するから、不正や横領はまず起きようがない。
というのが、サマンサの調査結果だった。
ところが、ある日、空軍基地から緊急の燃料補給の命令書を携えてアンドリュウ・フォイルがベネットの会社にやって来た。ちょうどサマンサが居合わせたので、アンドリュウはサマンサに挨拶した。
サマンサはその場をとっさに取り繕うために、アンドリュウは以前に付き合っていて別れた恋人なのだと周りに説明し、アンドリュウも話を合わせた。人の目がないところで、サマンサはアンドリュウに潜入捜査をしているのだと説明した。
アンドリュウはベネットの会社で事務員をしているヴァイオレット・デイヴィスと恋愛関係にあった。そして、戦争が終わったら結婚する約束を交わしていた。
一方、サマンサの職場の先輩、コニー・デュワーは、空軍基地のパイロットで撃墜王であるレックス・タルボットの恋人だった。
レックスはアンドリュウの少年時代の仲良しで、同じ戦闘機編隊の仲間だった。彼は長身で筋肉質の美貌の青年だった。
コニーは頻繁に空軍基地に燃料を届けに行く機会があったために、レックスと知り合い恋人となったのだという。