その日、フォイルはサマンサが運転する乗用車(警察車両)で移動していた。
すると、本土防衛隊 Home Guard (義勇防衛隊)が道路に検問所を設けていて、フォイルのクルマは停止を命じられ、検問に応じた。
ところがそのとき、酒樽を載せたトラックが傍らを猛スピードで走り抜け、検問ハードルを突破した。フォイルはただちにサマンサに追跡を命じて、怪しいトラックを追いかけた。
まもなく、猛スピードで逃げ去るトラックは積み荷が多すぎたため、カーブで曲がり切れずに側溝に脱輪して傾いて故障し、停止した。すると、酒樽には酒ではなくガソリン・灯油の混合燃料が詰められていたため、樽からは燃料が漏れ出し引火して爆発的に炎上した。運転手は黒焦げになった。
すぐに警察の現場検証と捜査が始まった。 トラックの所有名義はフレッド・ピアースで、過去に窃盗や横領などの犯歴があった。そして、現在はフランク・ガノンという事業家に専属の輸送業者をしている。
フランクもまた小悪党で、かつてフォイルが逮捕したことがあった。彼は今、いくつかのパブとホテルを経営していた。
フォイルとミルナーは、フランク・ガノンが燃料の横領と闇取引をおこなっていて、その輸送を請け負っていたのがピアースだったと読んだ。
しかし、ガノンが組織した横領と闇取引の仕組みは巧妙で、彼を追及する証拠は何もなかった。
この一帯では、マイケル・ベネットの会社が燃料配給業者の指定を受けて、業務を独占していた。だから、この会社が取り扱う燃料をガノン一味が盗み出しているはずだ。あるいはベネットとガノンは結託しているかもしれない。
2人は燃料管理局に赴き、燃料の横領と闇取引の実態についての説明を受けた。管理局の幹部は、年間に横領・闇取引される燃料は総配給量の3%にのぼると見積もっていた。膨大な量だ。
管理局は警察組織と協力して取り締まりをおこなってきたが、なかなか成果があがらないということだった。管理局は統制と取り締まりを効果的にするために、貯蔵所と配給業者の数を戦前の3分の1に限定したにもかかわらず、この手の犯罪は減らないという。
ベネットの会社でも、管理局が供給した燃料の量と実際に需要者に配給された量とのあいだには数%の差があった。その原因について、ベネットの会社の調査では貯蔵設備の欠陥・不備によって、燃料が漏出したからだと当局に報告してきたという。
タンクや配管からの漏洩については、ベネットの会社が貯蔵設備の調査と改修を委託した専門業者も確認しているという。その専門業者とは、ショーン・オハロランというアイアランド出身の職人だった。