映像物語の冒頭のシーンは、黄褐色を帯びた映像で、以上に述べた状況=歴史を直観的に描き出している。そのシークェンスには、ポリネシア諸島の住民とともに大型のトカゲ(コモドドラゴン)や海イグアナなどの爬虫類もまた被曝した事実が織り込まれている。
海生爬虫類の卵が並んでいる砂浜に死の灰や汚染雨が降り注ぐ場面が強い印象を残す。
事件はいつ起きたのかは、明示されていない。が、映画の制作年とほぼ同じであろう。
というのも、20世紀末という時期は、南太平洋で30年間持続したフランスの核実験の恐ろしい「後遺症」として海イグアナの何世代にもわたる突然変異が累積発現する頃合いだから。
この物語では、事件の発端は日本の遠洋漁船の遭難である。ただし、ビキニ環礁での被爆とは様相を異にし、大怪獣による襲撃による遭難なのだ。とはいえ、日本の遠洋漁船が核汚染で誕生した怪獣による襲撃の被害を受けるという事態は、第五福竜丸のビキニでの被爆を連想させるという点で、制作者たちはアメリカの核実験の罪深さについて「言外に言及している」ということではなかろうか。
遭難したのは、日本の遠洋漁業の母船。トロール網漁や巻き網漁をする小型漁船が捕獲した魚を受け取り集積して貯蔵したり加工したりする大型の船舶だ。
場所はポリネシアの東方沖合。
その海域は穏やかな夜を迎えていた。母船の航海士は休憩を取り、リラックスしていた。
ところが、船の進行方向で10時の方向から巨大な物体が接近してきた。物体は母船の直前で消えたかと思うと、突然船底を持ち上げ、船を破壊し始めた。巨大な尾を振りまわしてブリッジを打ち壊し、前足の鈎爪で船腹を引き裂いた。
このような奇怪な船舶の遭難事故は、その後も続いた。事件の場所は東に移動していった。ポリネシア沖からペルー沖に、そして、パナマ、コスタリカ方面に向かった。
■動き出したフランス情報機関■
一連の事件の発端がフランス領海付近だったため、最初に動き出したのはフランスの国家機関だった。DGSE(デジェエスエと発音
/ 対外安全保障総局:Direction Générale de la sécurité extérieure)だ。
フランス情報機関はいち早く、事件がフランスの核実験が直接の原因で引き起こされた突然変異で生まれた大海獣によるものではないかという観測をしたようだ。
DGSEの調査ティームを率いるのは、フィリプ・ロシュ大佐。
フィリプは、日本の母船の生存者が収容されている病院を訪れて、その生存者が悪夢にうなされるように「あれはゴジラだ!」と叫ぶのを記録した。このシーンは、1954年版の日本映画『ゴジラ』で大怪獣の名を最初に告げたのが日本の離島住民だったことへのオマージュだろうと思われる。オリジナルのゴジラ映画への真摯な敬意が示されているのだ。