落胆したニックは、ニュウヨークから空路でヨーロッパに戻ろうとして、雨中で空港に向かうタクシーを拾った。タクシーの運転手に空港に行ってくれと頼んだ。ところが、タクシーは空港への道から逸れて走った。
運転手に抗議しかけたところ、運転席からニックに顔を向けたのは、なんとフランスの保険会社の調査員のフィリプ・ロシュだった。ロシュはDGSEの情報網で、ニック・タトプーロス博士が対策ティームから放逐されたことをつかみ、彼を自分たちの作戦に引き込もうと画策したのだ。
その作戦とは、「ゴジラ退治」だった。
ゴジラによる混乱と破壊が深刻――世界都市ニュウヨークの壊滅という事態――になれば、いずれゴジラ発生の原因となったフランスの核実験への避難や批判が沸き起こるだろうから、それを回避するために奮闘していたのだ。
ところで、ニュウヨークでのゴジラの動きは、アメリカの国家秩序=安全保障に対する深刻な危機であるはずが、ニュウヨークに終結したのは1個連隊の陸軍・海兵隊の合同部隊と水域での原潜3隻だけだった。科学情報に長けたCIAや国土安全保障局などは登場しない。つまりは、アメリカの安全保障関係の情報組織は、表立った動きをしていないのだ。
現地派遣軍は、ゴジラについてまったく情報不足である。
ゴジラ映画で、ゴジラと対決する軍隊・軍事組織をリアルに描こうとすると、どうしても規模が小さくなってしまう。これは日本版ゴジラでも同様だった。大怪獣ゴジラの破壊力に見合った人類の軍事組織を登場させると荒唐無稽なものになってリアリズムを失い、軍隊のディテイル・リアリティにこだわるとチャチになるというディレンマがつきまとうようだ。
これに比べて、1個小隊しかいないDGSEの動きは、実に周到で見事である。まるで、フランス情報部を賛美する物語のようではないか。いや、アメリカの情報当局の無力さを嘆くべきか。
いや、実際には政策予算が限られていて、撮影や場面設定の空間を広げることができなかったからだ。SFXに金を使いすぎたために、構想が「チンケ」なってしまったようだ。
相手にする怪獣が巨大な割には、人類側の陣営は人材不足・資源不足のようだが、仕方がない。
ともあれ、DGSEは、ゴジラが撃退されて姿を消した以上、残る課題は、怪獣が産卵した場所を探し出して破壊し、ゴジラの増殖・繁殖を未然に防ぐべきだという課題で動いていた。そのために、ニックの頭脳と行動力が必要だったわけだ。理にかなっている。
ロシュはDGSEの探索ティームの拠点にニックを案内して、状況を説明して協力を求めた。こうして、ニックはロシュたちとともにニュウヨークの地下鉄と地下街探索して、ゴジラの産卵場所を探すことになった。
■マディスン・スクエア・ガーデン■
DGSEティームはじつはすでにゴジラの産卵場所を割り出していた。
マディスン・スクエア・ガーデン(MSG)だ。大がかりなイヴェントホールやアスレティック・アリーナを備えた巨大施設である。その地下のアリーナに何十もの卵が産みつけられていた。卵の周囲には無数の魚が備蓄してあった。
だが、ロシュのティームとニックが卵の周囲に爆薬を仕かけているときに孵化が始まってしまった。ゴジラの幼獣たちは、魚よりも動く獲物を狙う習性のようで、すでに死んでいる魚よりも動く人間たちに興味を抱いて、追いかけ、襲いかかってきた。
ニックたちは必死で逃げ回ったが、孵化した幼獣たちは、アリーナやイヴェントホールのいたるところで食料を探していた。というわけで、ロシュのティームとニックたちは追い詰められていった。
一方、卵を探し当てようとしている者たちが、ほかにもう1組いた。
オードリーとヴィクター=アニマルだった。ヴィクターはテレヴィ用カメラを抱えて地下街た地下鉄を歩き回っていた。そして、偶然にゴジラの産卵場所に行き当たり、孵化した幼獣たちに追いかけられていたのだ。
この2組のティームは、それぞれ幼獣に追い詰められて、アスレティックアリーナで出っくわした。
ロシュとニックは、この産卵場所をアメリカ空軍のジェット編隊に連絡して爆撃してもらいように要請した。というわけで、6分以内にガーデンから脱出しなければ生き残ることはできない。
逃げ道を探しあぐねていたロシュたちは、ゴジラ幼獣の群のなかに照明装置が落下したときに、幼獣たちがたじろいだことに目をつけて、照明装置を片端から銃撃して撃ち落として、逃げ出す経路を切り拓いた。
そうして、どうにかこうにかガーデンの外に逃れ出たとき、上空にはジェット編隊が迫ってきた。戦闘爆撃機はミサイルを発射した。全弾命中して炎が炸裂した。マディスン・スクエア・ガーデンは爆発で膨らみ炎上した。なかにいた幼獣たちは全滅したはずだ。とニックやロシュは考えた。