ハリウッド版ゴジラ 目次
核兵器と巨大怪獣
見どころ
あらすじ
フランスの核実験の歴史
ポリネシアでのゴジラの誕生
パナマの怪事件生
ニュウヨーク上陸
ゴジラとの戦い
運河に消えた怪獣
「捨てる神あれば…」
ゴジラとの死闘
生き延びた卵と幼獣
ゴジラの起原をめぐって
ハリウッド版ゴジラの起原
身体姿勢と歩行様式…
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風の谷のナウシカ

ゴジラとの戦い

  さて、南太平洋からパナマ、カリブ海、ジャマイカとゴジラの足跡を追いかけてきた海兵隊部隊とニックは、ゴジラがニュウヨークに上陸したという知らせを受けて、マンハッタンに駆けつけた。そこで、対ゴジラ作戦を展開する軍の連隊長ヒックス大佐の指揮下に入った。
  ヒックス大佐は、ニュウヨークのマンハッタン地区の住民を緊急避難させることにした。
  ところが、この作戦に対して選挙運動を展開中の市長がいちゃもんをつけた。なにしろ、選挙キャンペインの対象となる住民が都心部からいなくなるのだから、選挙戦略は破綻するわけだ。
  しかも、安全(セキュリティ)の向上と経済の活性化をキャンペインの目玉にしていたエバート市長としてみれば、ゴジラがこの都市の経済資産でもあるビル群や道路を破壊してしまったことは、はなはだ面白くなかった。怪獣の大暴れの前には、選挙キャンペインのスローガンはあまりに軽く空虚だ。
  この市長、市民の苦難よりも、自分の政治的立場や選挙戦での優位確保にしか気が回らないようだ。その意味では、市長もまた怪物の名に値する。

■おびき出し作戦失敗■
  ところが、ゴジラは一暴れすると、姿を消していた。
  ニックを含む調査ティームは、ゴジラ対策会議に呼ばれて対策を検討した。姿を潜めているゴジラを探し出して撃滅するにはどうすればいいかを。だが、妙案はない。
  そこでニックが提案したのは、大量の魚を餌にしてゴジラをおびき出して罠に追い込もうという作戦だった。場所は、セントラルパーク近くの広場。
  そのときゴジラは地下に潜んでいた。地下鉄や地下トンネル道路をはじめ、ニュウヨーク市には大深度地下施設がたくさんある。大怪獣は産卵場所を求めていたのだ。


  とはいえ、このゴジラは剥落した皮膚組織や体液を分析したところ、性的にはオスらしい。だが、産卵するのだ。単性生殖なのか。
  普通、これほど巨大で複雑な身体組織を持つ動物が単性生殖で増殖するはずがない。だが、チョウチンアンコウのようにメスの身体の数十分の1でしかないオスが生殖のさいにメスの身体に同化して精子生産機能だけがメスの身体の一部として残る場合もある。ゴジラは身体全体はメスなのだが、一部分オスの機能を持つ器官があるのかもしれない。

  ともあれ、大量の魚の匂いに惹かれてゴジラは地下から姿を現した。
  だが、ゴジラは自分のためというよりも、産卵後やがて孵化する幼獣(子どもたち)のための食糧を確保するために現れたので、軍が用意した罠にはかからず、すぐさま逃げ出した。
  軍はヘリコプター部隊を派遣してゴジラを攻撃した。
  ゴジラはその巨体にもかかわらず、じつにすばしこく動き回る。そして、ニュウヨークの高層ビル街は、巨大怪獣から見れば、岩の柱が林立する海岸あるいは深く峻険な海底峡谷のようなもので隠れ場所や遮蔽物がたくさんある地形だった。
  追尾して銃撃やロケット弾、ミサイルを浴びせようとするヘリから逃げ回り、身を隠し、反撃するのにはもってこいの場所になった。ひょいひょいとゴジラは街区の辻を曲がって、ヘリの射程や視認範囲から逃れ出る。
  ヘリ部隊は、熱源追尾式のミサイルをゴジラにロックオンして発射したが、俊敏なゴジラに身をかわされた。しかもゴジラの泰表面の温度が想定よりも低かったため)、ミサイルはクライスラービルを直撃してしまった。とんがり屋根の付け根部分に命中して、あの見事な先端部分が崩れ落ちてしまった。

  この戦いのシーンには、ハリウッドSFX部門の独特のリアリズムが表出している。
  動物としてのゴジラの運動形態を「じつにリアルに」描き出している。ハリウッド版ゴジラは、日本版のように放射能火炎を口から放射することはない。そんなファンタジックな能力は、生物してのゴジラにあってはならないということだ。
  ただし、炎上する車に口から強い呼気を吹きかけて、マジシャンが炎を噴くように、敵=人間たちに火炎を浴びせる反撃を見せるシーンがあった。それは、日本版への「当てつけ」とも「オマージュ」とも受け取れるようなパロディで、しかも、あくまで自然法則や生物としての制約の範を守り抜いてのことだった。

  とはいえ、体長80から100メートルにもおよぶ巨大怪獣を描くとすれば、どうしても地球上の物理法則、生物学的法則には反することになってしまう。そんな大きさの生物が、地球の重力のもとで身軽に動けるはずがない。俊敏な動作が可能な身体サイズは、陸上ではせいぜい15メートルが限度。海中なら、その倍くらいか。
  しかし、仮に可能であるとしよう。それでも無理はいくつもある。

  その巨体=大質量を素早くしかも大きな空間距離で運動させるために、ものすごい量の筋肉が必要になり、――その重量にともなう鈍重さを度外視しても――筋肉の運動が発生する熱量は、細胞の正常な運動・存続が可能な温度をはるかに超えてしまう――100℃を優に超える。つまりは、細胞と組織はボイルされて死滅することになる。
  百歩譲っても、熱源追尾式のミサイルが目標を失探するようなことはない。
  要するに、生物としての巨大怪獣ゴジラを描く限り、かなり荒唐無稽なファンタジーが必要になるわけだ。へたにリアリズムを持ちだしても効力なしというわけだ。
  それにしても、ゴジラは動物としての本能や知恵を駆使して人類の兵器に反撃した。ビル群のなかに待ち伏せして、ヘリ部隊を撃退し壊滅させてしまった。生き物としてのゴジラの存在――どん欲なまでの生存欲求、狡猾さ、俊敏さ、したたかさ――を描き出すことには、かなり成功している。

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