ハリウッド版ゴジラ 目次
核兵器と巨大怪獣
見どころ
あらすじ
フランスの核実験の歴史
ポリネシアでのゴジラの誕生
パナマの怪事件生
ニュウヨーク上陸
ゴジラとの戦い
運河に消えた怪獣
「捨てる神あれば…」
ゴジラとの死闘
生き延びた卵と幼獣
ゴジラの起原をめぐって
ハリウッド版ゴジラの起原
身体姿勢と歩行様式…
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風の谷のナウシカ

ニュウヨーク上陸

  その日、ニュウヨークは雨模様の天気だった。
  おりしもニュウヨーク市長選挙がおこなわれていて、現職市長のエバートが、持ち前の恥知らずな態度で再選キャンペインを繰り広げていた。彼の売り言葉は、「ニュウヨークをもっと安全な都市に!」だった。「犯罪とか暴力、破壊から市民生活や企業活動を守る」というのが、陣営のキャッチコピーだった。

  ニュウヨークの河岸(鮮魚卸売市場)はその日も活気に満ちていた。埠頭には、多数の漁船が横付けされて、捕獲した大量の魚を揚陸していた。だから、魚の臭気が一帯を覆っていた。
  その魚臭い埠頭の横の桟橋で老人が、大物を狙って釣竿を振り、餌の着いた釣り針を遠くに放り込んだ。
  「こんな天気の日には、大物が食いつくこともあるのさ」と言って。
  近くでは「物好きの爺さんが今日も釣りかよ」とからかい半分で、老爺の挑戦を眺める男たちがいた。
  爺さんの勘は大当たりだった。
  釣り針に大物がかかり、糸をぐいぐい弾き始めた。爺さんは必至でリールを回したが、引きが強すぎて獲物を手繰り寄せることできない。そればかりか、獲物は恐ろしい力で海に釣竿を引きずりこんでしまった。
  そのまま大物は陸地に迫り海面を盛り上げ大波を引き起こした。瞬く間に盛り上がった海面が迫りくるのを見た爺さんは必至で逃げた。

  すると、海面から2列の巨大な突起が現れたかと見る間に、巨大な恐竜のような姿を見せて桟橋を破壊して、そのまま河岸に乗り上げてきた。
  ゴジラの上陸だった。
  大怪獣は南太平洋に生息する海イグアナの突然変異で生まれたものらしい。30年間核実験が持続した場所だけに、何度もミュウテイションが繰り返されたかもしれない。何世代にもわたって突然変異と巨大化、凶暴化が拡大再生産されてきたようだ。
  背中には何列もの背びれ状の突起があり、後ろ足は直立2足歩行向けになっていた。イグアナは植物食で4足歩行だから、突然変異で食性も生態もまるきり転換してしまったようだ。
  つまりは、恐竜の肉食の獣脚類カルノサウルスと同じ身体構造になっていたわけだ。


■放送局の内幕■
  ゴジラが魚河岸で暴れ回っている頃、マンハッタンのカフェでは、地元のテレヴィ局の報道アシスタント、オードリー・ティモンズが同僚たちを相手に職場での差別やセクハラについて愚痴っていた。同席していたのは、カメラクルーのヴィクター・「アニマル」・パロッティと妻のルーシイ。
  オードリーは大卒で入局したが、上司でキャスターのケイマンからひどい女性差別を受けていた。仕事は補助的な雑務ばかりで、番組編集や取材からは遠ざけられている。まともな仕事をさせてほしいと頼み込むと、ケイマンから性的な関係を要求されてしまった。
  この時代普通なら、オードリーがパウワーハラスメントとセクシュアルハラスメントによって訴えれば、上司は職場を放逐されるか、オードリーとの和解を余儀なくされるはずだが、それもできないようだ。この時代設定はいささか古い。

  要するに、このシーンが言いたいことは、テレヴィ業界は恐ろしく遅れているという状況なのかもしれない。
  現職市長といい、テレヴィ・キャスターといい、ニュウヨークではゲスな俗物たちが手持ちの権力にしがみつき振り回そうとしているわけだ。核兵器によって生み出された怪獣が、目の前でうごめいているのに、人びとはあくせくとその日を送っている。
  「とにかく、まともな取材と報道制作をしたい」という願望をオードリーは、パロッティ夫妻に打ち明けていた。

■ゴジラ迫る■
  そんなカフェから数ブロック先では、上陸したゴジラが暴れ回り都市を破壊し始めていた。
  ゴジラは大通りをのし歩いてビルの側壁を打ち砕き、居並ぶ自動車を蹴散らし踏み潰していた。その衝撃や振動は、カフェにも伝わってきた。そして、カフェの窓際をぶち壊しながら、通りを歩き過ぎていった。
  人びとは逃げ惑った。
  ところが、カメラクルーのヴィクター=アニマルは、異様な事件を見るとハイになって映像に収めたくなる心性ビョーキの持ち主。窓の外の災厄を知るとテレヴィ録画専用のカメラを抱えて、通りに飛び出し、ゴジラの後を追いかけた。

  妻のルーシイはアニマルに「無謀はやめて!」と叫んだが、興奮状態のヴィクターには声が届かなかった。
  だが、そんな録画フリークのヴィクターも、目の前の交差点でゴジラが向きを反転させて戻って来ると――なにしろ体長80メートルにもなる怪獣である――恐ろしさに足がすくんだ。そこにゴジラは、恐るべき鈎爪を備えた巨大な足を下ろしてきた。
  大型トラックもぺしゃんこに踏み潰した破壊力を、ヴィクターは目の当たりにした。
  ところが、ゴジラの足は数センチの差でヴィクターの身体をそれて道路のアスファルトを踏み壊した。
  震え続ける手で何とかカメラを回したヴィクターは、乱れた映像ではあったが、聳え立つ巨体とのしかかってくる足裏を録画することができた。大スクープだ。
  その映像はまもなく緊急特報で放送された。

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