ハリウッド版ゴジラ 目次
核兵器と巨大怪獣
見どころ
あらすじ
フランスの核実験の歴史
ポリネシアでのゴジラの誕生
パナマの怪事件生
ニュウヨーク上陸
ゴジラとの戦い
運河に消えた怪獣
「捨てる神あれば…」
ゴジラとの死闘
生き延びた卵と幼獣
ゴジラの起原をめぐって
ハリウッド版ゴジラの起原
身体姿勢と歩行様式…
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■ハリウッド版ゴジラの起原■

  これに対して、ハリウッド版ゴジラではどうか。
  ここでも起源は明示されない。ただ、物語の冒頭で、南太平洋ポリネシアのフランスの核実験場の近辺にはイグアナやオオトカゲ(コモドドラゴン)などが生息している状況が描かれている。また、フランスの諜報機関も大怪獣を追跡調査していた。
  したがって、類推では、現代に生きる爬虫類=トカゲが核被曝で突然変異して巨大怪獣になったという発生起源が暗示されていると見るべきだろう。
  私としては、海イグアナよりもコモドドラゴンの方がゴジラの原種にふさわしいと思う。

  ここには、日本版ゴジラのように中生代から生き残った恐竜が核被曝で突然変異し巨大化・凶暴化したというファンタジック(荒唐無稽)発生起原ではなく、現生の海生爬虫類が核被曝で突然変異してゴジラが誕生したとするリアリズム指向が見られる。
  とはいえ、核実験による強い放射線被曝によっても衰弱したり死滅したりせずに、むしろ生き延びて巨大化し凶暴化するという状況設定には、そもその大きな無理がある。
  この文脈に関連して、この映画の冒頭では、放射線生物学者のニコスが調査をしていたチェルボブィリで放射線の影響で巨大化したミミズが描かれていた。このような突然変異が何世代か持続すれば、従来の比べて身体サイズがが何倍にも巨大化した個体が生まれるかもしれない。そういう放射線被曝の影響を描いて、ゴジラが現生爬虫類から突然変異で生まれる可能性を暗示している。
  その意味では、ハリウッド版ゴジラ映画はゴジラ誕生の筋立てプロットに首尾一貫性を与えようとしていると見なすことはできる。だから口から放射能火炎を吐き出すことはない。

  だが、生物学的に見ると、ハリウッド版では「リアルな現実」との関連性にこだわるがゆえに、そこには大きな欠陥がある。もちろん、空想ファンタジーの世界のことだから、どうでもいいことなのだが。
  どうでもいいことに、ことさらにこだわると…


  イグアナもオオトカゲも、現世の爬虫類である。まさに「爬虫」――これには体を地面に這わせて動くという意味がある――という名前のとおり、体幹を地面に這わせて歩く。この運動様式は、基本的には胴体と腰や肩、足の骨格との連結構造によるものだ。
  胴体と脚骨の関節は、脚が横に張り出すようになっていて、歩行は腹這いとなる身体の構造になっている。この構造では骨格の周囲にどのように筋肉がついても、体幹(胴体)を上に持ち上げて歩行する機能・能力はない。
  ところが、映像のゴジラは直立2足歩行で、この運動形態は爬虫類としては、哺乳類型爬虫類(単弓類=獣弓類)と恐竜の獣脚類だけが実現した骨格・運動形態である。このような体型・運動姿勢は、爬行する動物に比べて圧倒的に高いエネルギー代謝性能を必然的にする。
  代謝率の高度化は、食性を含めた生態、生存スタイルを大きく変えることになる。

  生物としての構造=機能転換は、なにも筋肉骨格だけにとどまらない。爬虫類の腹這い歩行は「省エネ型」の身体構造を持っているための行態であって、脚直立歩行はそれとはまったく別の新陳代謝性能を要求する。
  日常的・恒常的に高い位置に身体の重心を置いてバランスをとり、運動するためには、現生の爬虫類とは比べ物にならないほどのエネルギー代謝=物質代謝の速度と量が不可欠になる。ということは、消化器系、循環器系、呼吸システムはまったく別物にならなければならないし、そうした器官の機能をつかさどる中枢神経=脳や延髄の構造と機能も変化する。そうした中枢神経の維持のために必要なエネルギー量も必要だ。

  ところが、現生の爬虫類は、日常的な生活ではエネルギー=物質代謝率をいわば極限にまで小さくし、捕食・逃走などのため瞬間的に高い運動機能を発揮して生存するように、つまりは全般的に見てきわめて省エネルギー型の生存スタイルになっている。
  ということは、そうした方面での遺伝形質も転換しなければならない。

  では、放射線による突然変異で、そこまで身体構造や代謝性能、身体機能が変化するものだろうか。この変化は、海生爬虫類がすでに持っている遺伝形質のうちに眠っている遺伝子情報のどれかを飛躍的に顕現化させるものということになるだろう。
  腹這い歩行のイグアナと脚直立歩行とのあいだの遺伝子の差異(時間的な)はどれほどのものなのだろうか。どういうことかというと、どれほどの世代にわたって遺伝形質の変化が累積すれば、そのような差異が生じるのかということだ。

  イグアナも含む現世爬虫類の先祖が、脚直立歩行の機能を持つ単弓類ないしは獣脚類恐竜類と分岐する時代は、三畳紀以前のペルム紀と見られていて、およそ2億6000万年前まで遺伝形質を遡らなければならない。
  そうすると、腹這い歩き運動(筋肉骨格)の現世爬虫類が、放射能によるミュウテイションで直立2足歩行の形質を得るためには、それだけの遺伝子配列の変異の年数を一気にさかのぼることになる。
  仮にイグアナやオオトカゲが世代交代の期間が10年とすると、約2億6000万年分、つまり2600万世代も遡った遺伝子配列が核による突然変異で復元されるか、という疑問になる。
  現世の爬虫類の遺伝子配列のなかに、三畳紀の分岐以前の遺伝子情報はどれほどの比率で配分保存されているのか。核によるミュウテイションで2600万世代にわたって眠っていた遺伝形質が発現形にまでただちに復元可能なものなのか。
  私見では、おそろしく可能性は小さいように思える。

  やはり、どうせファンタジーなのだから、つまらないリアリティの追求はやめて、中生代からの生き残りの恐竜が突然変異する方が面白さは大きいように見える。
  この点では、日本版の方が優位にあるようだ――荒唐無稽な筋立てどうしの間の比較にどれほど意味があるか疑問だが…。

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