謎の巨大怪獣が次に痕跡を残したのは、パナマだった。
パナマには世界貿易の重要経路でもあり、合衆国の艦隊の展開にとって不可欠の航路となっている運河がある。そのため、軍事的プレゼンスを誇示するアメリカの海兵隊が、この怪事件の調査に乗り出した。
この調査に呼び出されたのは、若い放射線生物学者ニコス・タトプーロスというギリシャ系の青年。大学時代には、反核平和運動に加わり政府へのプロテスト行動を組織したこともある。
ところが、大学院修了後は政府の核エネルギー規制委員会の研究職に就いた。核エネルギーの抑制のためには、レジームの内部に入り込んで改革するしかないと考えてのことらしい。
とはいえ、彼はそのとき、ウクライナのチェルノブィリにいた。そこでは、原子力発電所の大規模な事故でこの地方は甚大な核物質と放射能による汚染を受けていた。その地方の多くの生物種が、放射能による突然変異を起こしていたので、生物に対する放射線の影響の実態調査をおこなっていたのだ。
ニック・タトプーロスが研究している生物は地中のミミズだった。強い放射線を浴びた結果、突然変異で新亜種が生まれていたのだ。そこのミミズは突然変異でサイズが平均17%も巨大化していた。
だが映像では、核汚染されたこの地で、電気刺激で地中から何百ものミミズの群が出現する場面を描いた。そこには、変異を受けながらも豊かな生態系が息づいているではないか。ミミズは土壌の豊穣の象徴なのだから。
さて、そんなニックは突然、国務省のエイジェントがヘリコプターで迎えに来て、その後軍用機で大西洋を渡ることになった。アメリカ軍からパナマでの調査への協力を依頼され、長い空路の旅をすることになった。
パナマでの異変の調査にあたっている海兵隊は、放射能による突然変異でとてつもなく巨大な生物が出現したようだと判断していた。
だが、政府の依頼を受けて身軽に動けそうな放射線生物学の研究者はニックしかない、と軽く見られての協力要請だった。調査ティームには、女性古生物学者のエルジー・チャップマンがいた。
ニックはパナマに着いてただちに調査を始めた。
すると、浜辺から内陸部にかけて、差しわたし十数メートルの巨大な爬虫類の足跡が残されていた。足跡から予測すると、少なくとも体高40メートル、体長は80メートル以上の爬虫類(トカゲ)らしい。
巨大な爬虫類は、太平洋から大西洋に出るために陸地の幅が狭いパナマに上陸して、横断したらしい。まるで運河を渡る外洋航海船舶のようだ。怪獣は、運河の水の匂いで、大西洋が間近にあると察知したのかもしれない。
その生きものは遥か南太平洋の彼方からパナマまでやって来たらしい。
■怪物の進路■
その数日前、南太平洋のタヒティ島では巨大な怪獣に襲われて破壊された日本の漁業母船が海岸に打ち上げられたという。その情報を得た海兵隊とニコスは、タヒティ島に調査に出かけた。その難破漁船は、3本の鈎爪つきの足(前足らしい)によって船腹が引き裂かれていた。
次にニックたちは、パナマを超えてカリブ海のジャマイカ島に向かった。謎の怪獣がジャマイカを襲ったという知らせを受けてのことだ。熱帯にある簡易なつくりの住宅を造作もなく踏み潰していった痕跡が残されていた。
カリブ海に出た怪獣はその後、進路を北にとって大西洋の沖合=外洋に出たらしい。
そのまま北上すれば合衆国の東部海岸地方に近づくことになる。国務省と軍は、警戒態勢を敷くことにした。
数日後、今度はロングアイランド沖の漁場で異変が起きた。
深夜、トロール網漁をしていた3隻の漁船が、網もろとも海中に引きずり込まれて沈没したのだ。数百トン以上の物体を海中深く引きずり込むほどに恐ろしい力を持った何者かが、トロール網のなかに捕らわれていた魚群に食らいついて網と漁船を水中深く沈めたらしい。