ユージェネーはこれまで、FBI(今回の大統領選挙の候補者たちの安全を保証する任務を遂行)の一員として、副大統領候補の安全確保の任務についてきた。そのために、ベネット・マルコを監視してきたのだった。ベンは、その立場を利用しようとしたのだ。
ベンはユージェネーに頼み込んだ。レイモンドの遊説先で警護の隙間をつくってもらって、レイモンドと2人きりで会う機会を確保してほしい、と。彼女は、ベンを信じて、ベンを援護することにした。
さてその日、レイモンドはある地方の小学校を訪れていた。ユージェネーは、大男のボディガードを巧みにあしらって、小学校の1室に潜んでいたベンにレイモンドを会わせた。レイモンド自身も、その機会を待っていた。
この会見には、二重三重の仕掛けが絡みついていた。
ベンはレイモンドを説得して、謀略から抜け出させようとしていた。ところが、エレノアとマンチュリアンは、ベンがレイモンドに接触してくることを見越して、ベンを謀略のチェスボードの駒として利用しようとしていた。そして、レイモンドにはまた、彼自身の狙いがあった。
それが今、1点で絡み合うことになった。
ベンがレイモンドを説得している最中に、レイモンドの携帯電話の着信・呼び出し音が鳴った。コールしてきたのはエレノアだった。エレノアは、あのキイワードでベンに暗示をかけようとしていた。
「ベン、ベネット・マルコ少佐、・・・」と、ある行動の命令をしたのだ。エレノアは、あのチップがまだベンの背中に埋め込まれていて、暗示によってマインドコントロールができると思っていたのだ。
だが、そのあと、レイモンドとベンは何か打ち合わせをしたようだった。
そのときから、ベンの行方は杳として知れなくなった。ユージェネーは先行きを心配したが、ベンの所在はわからなかった。
暗示によるベンへの命令は、翌日の大統領候補、ロバート・アーサーの勝利宣言と祝勝のための大集会で、エレノアたち一味が準備した場所から、狙撃をおこなうというものだった。
大集会の日、ベンは陸軍の制服(礼装)を着用して会場に現れた。そして、地下の機械室まで行って狙撃用の銃を手にすると、階段をのぼった。そして、集会会場となった大ホールの演壇を見下ろす位置にある、階上の用具室に潜んだ。その部屋の窓は、演壇の人物を狙撃するためには格好の位置取りにあった。
銃は、エレノア=マンチュリアン陣営の息がかかった大男の警護員が、地下の機械室に隠しておいたものだった。
勝利集会が始まった。アーサーの勝利宣言と演説。次いで、レイモンドの演説。そして、ステイジには、制副大統領候補とその家族、党の主だったメンバーが勢ぞろいして祝勝パフォーマンス。
エレノアは、ベンがアーサーを撃ち殺し、レイモンドが大統領の地位を受け継ぐ瞬間がやって来ることを待ち望んでいた。
レイモンドも、ベンの銃撃を待っていた。
レイモンドは、母親を呼んで腕を取りダンスを始めた。
そのとき、ベンの狙撃銃が火を噴いた。
銃弾は、エレノアの胸を貫通してレイモンドを撃ち倒した。
レイモンドは、戦友だったベンに、この謀略に終止符を打つように頼んだのだ。レイモンドの脳の片隅に残っている「自分自身」の意思が、この恐るべき陰謀を、それゆえまた感情を失った殺戮マシーンになってしまった自分自身を、終わりにしたいと望んでいたのだ。
ユージェネーたち警護スタッフは狙撃場所に駆けつけて、ベンの身柄を確保した。