マンデラの名もなき看守 目次
人種隔離とヒューマニティ
原題と原作
現代の制度たるアパルトヘイト
あらすじ
南部アフリカの植民地化
アパルトヘイト政策
冷戦で生き延びたアパルトヘイト
ロベン島(監獄島)
敵対に引き裂かれた社会
マンデラとの出会い
マンデラの監視
自由憲章
苦悩への共感
募りゆく職務への嫌悪
ジェイムズの孤立
決   意
崩れゆくアパルトヘイト
焦点となったマンデラ
グレゴリーの「復帰」
マンデラ解放への道筋
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敵対に引き裂かれた社会

  人びとの社会意識や心理、行動スタイルは、生まれ育った社会的環境、レジーム、政治構造が生み出す価値観やイデオロギーから自由ではありえない。メディアや公教育をつうじて、現存の秩序の維持にかなった意識や価値観が注入される。
  レジームが発信するイデオロギーによって個人や集団の意識が拘束される度合は、執拗で周到な人種隔離・差別制度によって根深い敵対関係に人びとが2つの陣営に引き裂かれている場合にはことさらにひどくなる。政府や教育制度、メディアが流布する敵対感情や恐怖感を植えつけられた人びとには、比較的自由な思考や学習によって、思想や意識を選択する自由はないといってもいい。

  敵対するそれぞれの側は、とりわけ支配し優位に立つ側は、自分たちの優位や特権的地位を敵対相手が攻撃したり奪おうとしないように、理論や意識で武装し強固に結集して、相手側をつねに無防備で孤立した状態に置こうとする。
  とはいえ、そういう明確な政治的目的は政権の指導部や上層部が保有しているが、白人一般民衆には、むしろ黒人の粗暴さや悪賢さへの疑念や脅威として意識されるばかりである。明確な政治的目的意識よりも、素朴な敵対心や恐怖心の方が民衆を虜にしやすいのだ。つまり、多数派民衆は政治的選択をしているというよりも、むしろ操作され呪縛されているというべきかもしれない。
  政権は、むしろ白人一般民衆が隔離と格差がもたらす悲惨さへの批判意識や疑問を抱かせないように、彼らに迷信や蒙昧に近い心理や感情を抱かせようとする。

  だが、政治的闘争や競争のなかで相手についての正確な情報認識を与えずにおくと、やがて状況が変化すると、敵対・競争相手の能力や行動についての判断を誤らせ、その結果、状況認識を誤ることで妥協のための交渉や駆け引きの判断を誤り、こうして力関係の転換を招くことになる場合が多い。
  とはいえ、人は経験から学習するものである。衝撃や違和感を受けると、人びとは思慮深くなり、少しずつモノの見方が修正されていくことも多い。だが、それは多分に個性や感受性によるのかもしれない。

マンデラとの出会い

  ジェイムズ・グレゴリー軍曹はロベン島黒人政治犯監獄でB区画の検閲係(主任)となり、マンデラの監視を担当することになったのだが、その仕事とはこういうものだった。
  ジェイムズは子ども時代に田舎の農場で育ったが、近隣の黒人集落の暮らす少年バファナと親しくなったことから、コーサ語を使えるようになった。そこで、ロベン監獄で検閲官の職務とマンデラの監視という任務を割り当てられることになった。マンデラはコーサ語を使うからで、マンデラが獄中で何を話し、でどんな内容の書簡を外部とやり取りするかを検閲・監視できるからだ。

  さて、ジェイムズは検閲官としての着任にあたって、一ところに集めた黒人懲役囚たちの前で就任挨拶――というよりも威圧と規則への服従要求――をおこなった。そのシーンで、外部との通信連絡で囚人たちが大きな制限を課されていることが語られる。
  その制限とは、
@手紙のやり取りは、6か月間に1回だけ
A囚人たちは、手紙には監獄内部でのことや政治的事柄については書いてはいけない。この禁則を破ると手紙は投函されない
B出す手紙も受け取る手紙も500語以内とする。それを超える分は破棄される
というものだ。
  もちろん、手紙の授受に差してはすべて検閲官が内容を検閲する――これは日本の刑事犯罪者を収容する刑務所でも同じ。外部からの手紙については、政治的な事項などが記載されていないかを検査し、疑わしい部分はすべて削除される――カッターやハサミで切り取るのだ。

  さらに、暗号や符牒による連絡が潜んでいないかを調査する。外部から着た書簡のなかには、ごく薄い紙を二重張りにした便箋のなかにきわめて薄い紙に書かれた秘密通信が隠されていることがあるからだ。
  だから、ときにはマンデラが受け取る手紙が、細長い四角形に切り取られた穴だらけの便箋を受け取ることになる。

  次にマンデラ個人の監視の仕事としては、
  刑務所の内部でマンデラがほかの囚人と政治的な会話やコミュニケイションをはからないようにする――これは、むしろ一般看守の仕事――ことのほかに、マンデラとの接見に訪れる家族との会話内容を監視・規制・盗聴することである。

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