とはいえ、敵役、憎まれ役だけではドラマは成り立たない。ここに、ランキン・フィッチに戦いをいどむ人物が登場する。
だが、そういう人物は「正義の味方」「善人」というわけではないようだ。腹に何か企みを秘めているようだ。つまりは、これは陪審員制裁判をめぐるコンゲイム=騙し合いのストーリーなのである。
そういう役回りの人物が、ニコラス・イースターという若者だ。
彼は8か月前にニュウオーリーンズに移ってきて、今はコンピュータゲイム・ソフトの販売店に努めている。34歳で、アルバイトの大学生ということだが、ランキンのスタッフの調べでは、どこの大学にも籍はない。謎の人物だ。
ランキンは、ニコラスが陪審員の候補者に選ばれたときから、スタッフたちに監視・盗撮をさせてきた。一見、お気軽な若者という感じだが、相手の受けを狙う、いい子ぶるという性格なので、原告に同情して周囲の歓心を買おうとするかもしれない。得体の知れない人物は陪審員から外す、これがランキンの原則のようだ。
というわけで、ランキンはニコラスを忌避するように弁護士に伝えた。
ところが、ハーキン判事がニコラスに質問したときに、ニコラスが陪審員になるよりも連邦規模でのヴァーチャルゲイム大会への参加の方が大事だというようなそぶりを見せたことから、判事が陪審員として市民的義務を果たすようにと強弁したため、原告・被告双方とも、ニコラスを選任するしかなくなった。
これは、ニコラスの手管だった。
彼は陪審員メンバーに加わることで、何かを画策しているのだ。
いよいよ弁論と審理が始まった。
そのとたん、駆け引きと騙し合いが展開することになる。
さて、ニコラスはことあるごとに、若い女性、ギャビー(ガブリエラの愛称)と連絡を取り合っている。その女性が、傍聴席に金髪の「かつら」をかぶって現れ、法廷の女性事務員に両陣営の弁護士に封筒を渡すように依頼して姿を消した。
ウェンデルが封筒を開けると、「陪審員売ります( Juries For Sale )」というメッセイジが入っていた。
陪審員全員の顔写真を乗せてパソコンで編集されカラー印刷されたカードだった。同じカードは被告側弁護士にも渡った。陪審員をめぐることなので、カードはただちにランキン・フィッチに回された。
この時点では、両陣営とも、相手側が仕かけた罠だと考えた。
一方、ランキンは、自分の作戦どおりに陪審員の意見・評決の操作を続けようとしていた。陪審員メンバーをひとり、またひとり、弱みを突いて屈服させていく。
まず牧師の妻の過去の不倫を探り出して脅迫。
さらに、食料品スーパーマーケット・チェインの売り場主任の男性を買収しようとする。なんと、スーパーの株式をそっくり買い取って経営権を握り、その男を管理職に据えようとした。抜擢と引き換えに、評決を買い取ろうというのだ。
さらに、黒人の若者がHIV検査で陽性だったことも暴き出して脅迫を始めた。