《陰謀》の解剖学 目次
「暗殺」の描き方
暗殺とは何か
ケネディ暗殺事件
暗殺事件の真相は闇のなか
暗殺映画の事例研究
ターミネーター
ジャッカルの日
  フランスのディレンマ
  保守派の分裂
  追い詰められた強硬派
  プロの暗殺者を雇う
マイケル・コリンズ
  暗殺の悲劇
シューター 極大射程
  謀略とサヴァイヴァル
おススメのサイト
政治闘争と暗殺の物語
マイケル・コリンズ
暗殺者の物語
ジャッカルの日
シューター 極大射程
黒の狙撃者
コントラクター

ジャッカルの日

■暗殺スリラーの最高傑作■
  暗殺事件を描いた映画作品の数はかなり多いが、そのなかでも最高傑作の1つと言えるのが『ジャッカルの日』だ。原作、フレデリック・フォーサイスの同名の著書に忠実に映像化している。
  狙撃の実行と阻止をめぐるスナイパーとフランス官憲との息づまる攻防、チェスの駆け引きのような知謀・知略の展開がみごとに描かれている。映画の質を決めるのは、テクノロジーよりも「本」と演出・演技、そして状況設定だという理を余すところなく示している。

  何よりも素晴らしいのは、この映画が運よく、おりよく、歴史上、ヨーロッパの社会と文化のクリティカルポイント――構造的転換点――で制作されたこと。そのことが、のちの時代にこの映画を古典として鑑賞する人びとに、フランスだけでなく世界の構造転換を想起させるということだ。

  映像物語の筋道については、このサイトの記事を参照してほしい。ここでは、フランス大統領暗殺計画の背景となった状況、つまりフランス国内の構造転換と世界秩序の変動について焦点を当てることにする。
  まず、1950年代末から60年代はじめまで、フランスとヨーロッパをめぐる世界秩序と国際組織の変動の歴史について、概観しておく。

・1957年3月 フランス自治領(属領)ガーナ独立
・1957年末 ヨーロッパ経済共同体(EEC : 共同市場ともいう)の発足
  第2次世界戦争のようなヨーロッパを主戦場とする国家間の軍事的敵対や主要産業の利害対抗を予防するために、関税同盟、原子力エネルギー開発での共同、共通農業政策、そして石炭・鉄鋼という鈍重でいささか時代遅れになった「基幹産業」を共同の管理下に移す政策を、主要7か国で合意、EEC設立。
  同じ頃 アジア・アフリカ諸国民会議の創設  アジア・アフリカ諸地域での「国民独立」「国民解放」運動が活発化する。
・1958年2月 エジプトとシリアが連邦してアラブ連合国家樹立
  当時、世界最大の産油地域=中東での紛争・混乱の危機
  これに対抗して、その後、アメリカ大統領が国際秩序再編への政策構想を企図。
・1958年9月 フランス第5共和政発足
  翌年初から、ドゥゴールが大統領になるレジームが構築されていく。
  ドゥゴールは、この年、ブリテンのEEC加盟に拒否権発動。
  この年の春から インドシナ戦争始まる
  この年、フランス領植民地だったアフリカ諸地方が続々と独立(共和政)宣言していく。
  スーダン、チュニジア、ギニアなど
・1959年5月 ジュネーヴ会議  アメリカ、ブリテン、フランス、西ドイツ首脳が会談。
  主題は、対ソ包囲網(冷戦構造)の構築だったが、旧植民地・属領の独立運動によって、西ヨーロッパが支配優越する世界秩序が解体し始めたことに対応して、戦略の練り直しを試みた。
  ソ連は、独立運動に介入して反帝国主義・社会主義イデオロギーを注入しようとする。
・59年9月 アメリカ・フランス首脳会談、共同宣言
  アメリカは、アルジェリアの独立を受け入れるようにドゥゴールを説得。ドゥゴールは、アルジェリアの「レジーム選択の自由」を認める。
・59年11月 EECから除外された西ヨーロッパ諸国が、ヨーロッパ自由貿易協定(EFTA)による部分的関税同盟を組織
・1960年2月 アルジェでフランス植民者と駐留軍の反乱・暴動
  その後、12月には、駐留軍と植民地主義者が反ドゥゴールの蜂起・反乱
・この年独立宣言したアフリカ諸国(19か国)がUN(国際連合)に加盟承認
・同年12月 OEEC(ヨーロッパ経済協力機構)をOECD(経済協力開発機構)に改編
・1961年1月 フランスでアルジェ問題の国民投票――結果は立受け入れ
  この頃から、ドゥゴール暗殺未遂事件が続発
・1961年3月 ベオグラード中立国首脳会議(チトー主導)
  ここから「非同盟」運動発足。ただし、非同盟運度での覇権争い(中国対親ソ連派の対立)が目立ち始める
・1961年3月 フランス政府、アルジェリア政府との停戦協定に調印
  4月には、アルジェリアが独立宣言
・1961年12月 アメリカ、クーバ(キューバ)港湾閉鎖――以降、クーバ危機勃発

  新聞の国際面をにぎわした主な事件のほんの一部を取り出しても、これだけの動きがあった。

前のページへ || 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界