《陰謀》の解剖学 目次
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追い詰められた保守派強硬派

  アルジェリア問題をめぐっては、剛毅な軍人というドゥゴールの幻影=虚像に惑わされていたのは、軍部の強硬派(守旧派)も同じだった。だが、彼らは、戦後の世界秩序の構造転換とフランス経済の構造変動をほとんどまったく理解していなかった。それはまた、世界経済におけるフランスの政治権力と経済能力の相対的な後退ないし没落についても、まったく認識できず、依然として誇大妄想を抱いていた。
  アメリカが覇権を握り、世界の金融資本と工業資本の大半を支配していて、しかもヨーロッパ列強の植民地支配レジームはすでに崩壊に瀕している、にもかかわらず諸国家は深刻な財政危機(資本危機)に陥っていて旧来のレジームを再建維持する余力をすっかり失っているという実情をまったく理解していなかった。

  だから、旧来の権益や利権に執拗にしがみついてはいても、それを新たな情勢のなかで再構築していく展望=政策を、たったのひとつも持ち合わせていなかった。
  一方、ドゥゴールはヨーロッパと世界の風向きを即妙に読み取る「リアリスト」だった。だから生き残ってきたのだ。
  彼はインドシナでの敗北の経験から教訓――旧来型の植民地支配は国家運営を破綻に導くという状況――を読み取っていた。
  だから、彼は、アメリカとの首脳会談で譲歩したような振りをしながら、じつはその見返りとしてアメリカから譲歩を勝ち取り、アルジェの独立を受け入れた。そもそも、EECの指導国家の役割と、アジア、アフリカ地域植民地の宗主国の役割とは、両立させることができなかったのだ。


  ヨーロッパ経済共同体EECという政治組織は、――かつては世界市場を席巻していたものの、戦後、フランスと同じように植民地を失い、国内では荒廃ないし老朽化した産業基盤の整理・更新・再建を迫られていた――中核地域の諸国家のヨーロッパ的規模での秩序再構築をめざす運動だった。この秩序再編は、北アフリカから中東、アジア、ラテンアメリカの再編とも連動していた。
  偏狭なナショナリズムや国民的市場障壁を取り払って、共同関税=関税同盟とスクラップ化すべき基幹産業をEECの共通管理政策で、できる限り「苦痛を少なく安楽死」させて、アメリカ主導の先端工業部門の開発に移行を達成するための試みだった。つまり、世界的規模での資本蓄積様式の構造転換に向けた枠組みの組み換えだったのだ。
  その意味では、アメリカの慫慂がなくても、フランスにとってはアフリカの植民地を手放すことが、世界競争のなかで国家としての長期的な生き残りのために不可欠の戦略だった。

  ところが、アルジェの――もっぱら解放戦線に対する――軍事的防衛を直接に担っていた軍部守旧派と国内政界主流派の意見は分裂していた。政界の中枢と軍指導部はドゥゴール陣営に与していた。
  だが、軍と政界の一部、つまり、これまで無意味なアルジェの武力闘争に多くの若者をを送り込み、その正当性を声高に主張していた勢力は、この政策(戦略)転換で足元をすくわれた。とりわけアルジェ駐屯軍の指導部が。
  しかも、彼らはアルジェ独立をめぐる国民投票で敗北して、冷静さを失っていた――逆上していた。アルジェでの経営資産と利権を失うプランターや観光・娯楽産業の経営者層が、こうした勢力と同盟した。
  それで、アルジェリア駐屯軍は守旧派に扇動されて反政府暴動=反乱を企てた。だが、あっさりと鎮圧・抑圧されてしまった。

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