合衆国国防総省の諜報・海外作戦諸部門が国内の民間軍事顧問会社、傭兵業者と結びついて内外の策謀に関与していることはよく知られている。
そのほとんどが国外の気に入らない政権の転覆工作や新米勢力への軍事的支援活動にかかわるものだ。ところが、この作品では国防総省幹部が国内での要人暗殺を企てる謀略が描かれている。目的は、アメリカの巨大オイル会社の外国での権益拡張だった。
いかにもありそうな印象を与える物語だ。2007年作品。
原題は Shooter (射撃手、狙撃手) 。原作は Stephen Hunter, Point of Impact, 1993 (スティーヴン・ハンター著『衝撃点』、邦訳:『極大射程』扶桑社刊)。ポイント・オヴ・インパクトには、「銃の発射地点」とか「着弾点」という意味もあるようだ。
物語は、ペンタゴン幹部による営利事業に「捨て駒」として利用され、政府や軍に絶望した狙撃兵の物語だ。彼は隠遁生活から呼び戻されて、ふたたび軍幹部によってアフリカの有力聖職者の暗殺謀略に利用されことになった。
その元狙撃兵は、自分を利用し殺人犯として抹殺しようとした軍幹部たちに報復し、冤罪を証明しようと奮闘する。
ペンタゴンの後ろ暗さを暗に批判する物語となっている。ものすごい量のペイジ数に狙撃や暗殺に関する膨大な情報が盛り込まれている。
見どころ
ペンタゴンの謀略や狙撃兵の物語に興味のある人におススメの作品。何しろ、1000mを超える超遠距離射撃シーンが、それもかなりリアルな状況設定で、何度も登場する。だが、主題は軍の非公然組織によって罠にはめられた狙撃手の復讐の物語だ。
1960年代から、アメリカ軍部が、非公式の関連組織をつうじて、正規の軍事サーヴィスから外れた領域でおこなっている軍事活動(高収益事業)については、いくつものレポートが出されている。軍の将官を通常の任務から外して、外国政府や民間企業、はては親米の反政府組織に軍事顧問(アドヴァイザー)として派遣し、軍事活動を支援したり「経営環境を管理」したりするのだ。
悪名高いところでは、チリのピノチェト将軍によるクーデタとその後の軍事独裁政権の支援活動がある。
軍隊の維持にはとてつもない費用が必要になる。そこで、軍部はきわめて収益率の高いサーヴィス事業に手を染めて副業化し、財政資金を手に入れようとする。何しろ軍は遊休ないし予備の兵力や人材、兵器を抱え込んでいるから、それらを「有効」に事業活用するのは、いわば不可避なのかもしれない。
「国益」とか「愛国心」というものは、具体的にはそういう諸々の事柄と密接に絡んでいる現象なのだ。
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