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映画『愛と哀しみのボレロ』で、アルジェ反乱で敗北してパリまで帰還する若い兵士たちを乗せた列車のシーンがあった。その場面は、まさにアルジェ戦線からの引き上げを政府に命じられた若者たちを描いたものだ。
反乱に参加した若者の多くは、反乱派の将校の主張に共鳴していたわけではなかった。軍部が分裂していて、軍指導部の片割れが、青年たちを徴募してアルジェ戦線に無理やり送り込んだのだ。国家と支配階級の凝集性は崩れかけていた。
フランス市民の多数派もまた、無益な戦いで若者の血が流れ続けることを拒否した。
というわけで、軍守旧派は、自分たちが正しいと信じていた価値観が完全にひっくり返された。彼らは今や政治権力の中枢から追い払われただけでなく、邪魔者として排除され孤立していることを思い知らされた。その結果、血迷った挙句に、その腹いせに無謀なドゥゴール暗殺を企てた。
逆上して怨念に凝り固まっていた。だから、暗殺後の政権運営に対する展望や指針がなかった。
とすれば、仮にドゥゴールの暗殺に成功しても、強硬守旧派が政治的権力を回復する条件はまったくなかった。むしろ、ただフランス国家の威信を深く傷つけるだけということになっただろう。
その意味では、ドゥゴール暗殺計画は、首謀勢力が敗北の淵にまで追い詰められた結果の無謀な反抗だった。私怨による謀殺というべきかもしれない。
それゆえ、展望を失った反乱派軍人では、大統領狙撃を周到に準備する能力も手立てもない。フランスでの彼らの拠点や組織は完全に分断粉砕されていた。暗殺の企図はことごとく察知され摘発されていった。味方のなかにも保身のために当局に情報を流す者たちが続出した。
そこで、プロ中のプロの登場と相なる。首謀者たちは、高額の報酬で狙撃のプロフェッショナルに暗殺計画をゆだねた。
ここで、反乱派は物語のはるか背景に退き、狙撃のプロとフランス公安のエリートとの知恵比べと駆け引きが前面に出てくる。
こうしてみると、作品のプロットはじつに綿密・巧妙である。
暗殺計画の構図と背景を分析することがここでの目的なので、考察はここで終わりにする。物語を知りたい場合には、⇒『ジャッカルの日』を参照してほしい。
このあとも引き続いて暗殺を扱った映像作品を素材に思索する。作品が描いた事件と背景を検討しながら、対決の構図や暗殺にいたる経緯を考察する。