レナードの朝 目次
33年後の目覚め
原題と原作
見どころ
あらすじ
珍奇な臨床医の誕生
患者たちの奇妙な反応
レナードとの出会い
《Lドーパ》投薬治療
  Lドーパ投与の学会報告
  レナードの投薬治験
快挙に沸く病院
スポンサーの説得
レナードの自立心と反抗
  身体の自立と精神の自立
  反抗と病院の秩序
治療効果の消滅
  パイロットケイス
  Lドーパ投与治療の限界
私の経験に即して
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レナードの自立心と反抗

  こうして、やがて病棟は麻痺や硬直から回復しつつある患者たちの集合となっていった。失われていた機能を取り戻そうとする訓練・努力が始まった。病棟には活気がみなぎってきた。
  そんなある日、レナードは、きれいな若い女性と出会った。彼女のなまえはポーラ。いまでは「植物人間」のようになってしまった父親にときどき会いに来ているのだ。レナードは彼女に強く惹かれるものを感じた。

  で、ある日、病棟の患者全員でピクニックに行く予定なのに、レナードは小型バスを降りて1人病院に残った。ポーラと話をするためだ。そんな努力の甲斐あって、レナードはポーラと親しく話す間柄になった。ポーラは病院に父の見舞いに来るときは、かならずレナードと話すようになった。
  レナードはポーラに自分の立場を率直に語った。
  少年時代に嗜眠性脳炎にかかって麻痺・硬直が始まって、30年以上の「人生の空白」が続いたこと。最近、ドーパミンの投与治療で、麻痺や硬直から解放されたこと、を。
  正直に身の上を語るレナードにポーラは好感を持った。

身体の自立と精神の自立

  その頃から、レナードは自分のそのときどきの気分や関心とか目的意識に沿って行動するようになっていく。朝、母親と会話していても、ポーラが来ると、母親をほったらかして病院内のあれこれ別の場所に出かけていってしまうようになった。
  母親は不満を感じるようだ。何しろ、これまですべてを自分に頼り切ってきた息子が、自分の意思でで動けるようになったら、自分にはあまり関心を向けてくれなくなったからだ。
  そうなった原因や背景に目を向けてみよう。


  レナードは11歳から身体の麻痺や硬直が始まった。
  健康であれば、その何代からの少年たちは親からの自立を模索し、やがて親から与えられた保護や規制から離脱するために「反抗期」を迎えることになる。自己の意識や意欲と家族などを含めた社会環境との関係――葛藤など相互作用――をつうじて成長していく。精神や身体の成長(たとえば筋肉の運動能力の増大)が自我の形成にともなう自立化と反抗を呼び起こす。
  だが、筋肉の運動能力を失い身体の自立の条件を奪われたレナードは、病気の進行とともに、むしろ親により深く依存していくようになった。健常な人間の成長コースとは、まったく逆の、いやまったく異なる生活を余儀なくされてしまったのだ。

  ところが他方で、レナードには人並み以上の知性と感性があった。自宅療養中に読んだ大量の書籍がもたらした知識や教養も備わっていた。精神世界の地平は限りなく拡大しようとしていた。しかし、その豊かな知性と感性は、しだいに麻痺し硬直していく肉体のなかに閉じ込められてしまった。やがて、本さえも自分の力だけでは読めなくなってしまった。
  それから30年以上を経て、今、突然のように、自分の意思で身体を動かすことができるようになった。反抗期や思春期や青年期を経ずして、壮年期をいきなり迎えることになってしまった。身体の成長や活動と結びつきながら通過=経験すべき成長段階・成熟段階がぽっかりと欠落しているのだ。

  そんなレナードは、身体の機能が回復・向上するにつれて、自分の行動範囲が病院施設の内部に限られていること、そしていつでも病院スタッフの監視と看護・介助のもとに置かれていることに反発を覚えるようになった。普通の人びとと同じように、病院の管理体制から抜け出して「自由に」生活したい。そういう欲求が強まっていった。
  こういう行動や意識そのものは、論理的には、身体の自由を回復してきた患者の回復とリハビリテションの点では、きわめて正常かつ必然的なものだ。だが、そういう論理が、権威とか管理体制が組織された社会制度としての病院ですんなり通るはずもない。

  ついに、それを病院側に訴えるようになった。だが、レナードは治験の真っ最中であって、そんなことが許されるはずがない。だから、病院側はレナードの要求にはまったく取り合わなかった。

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