《犯罪》の認識論 目次
犯罪捜査の認識論
取り上げる映画作品
私たちの視座
オックスフォード連続殺人
  ヴィトゲンシュタイン
  事件の実体を隠すために
  連続事件の舞台 その1
  連続殺人の舞台 その2
  招き寄せられた惨劇
  マーティンが見出した真実
認識論をめぐる論争
カオス(ケイアス)
  増えていく死体
  背後に潜む策謀
  高跳びするコナーズ
犯罪(捜査)と認識論
一般自然科学と数学
後追い的な真理への接近
ピュタゴラス教団について

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私たちの視座
  人間が社会や自然世界をどこまで認識できるのか、という問題は、科学や哲学の中心課題であり続けてきた。その問題意識には、人間の認識や知覚は進歩し続けるもので、少しずつではあれ真理に接近していくものだという楽観的な見方がある。
  ところで、人間が真理御や真実を認識できるはずだという考えは、もともとは
  ……神が創造した世界はしかるべき意味と秩序を備えた構造である、それゆえまた神によって神の存在を認識できる知性を備えた存在として創造された人間は、造物主の神が意図したこの世界=宇宙の摂理を認識できるものだ
  という世界観から発したものだった。
  とはいえ、神は人間が精神活動=思考や思想のなかで生み出したものであって、人間が神の被造物であるのではなく、神が人間の創造によって生み出されたものなのである。
  というような具合に中世の神学的世界観が近代になって批判・否定されてみると、人間が世界=宇宙の摂理ないし真理を発見・認識できるという楽観的な見方もまた疑われるようになってきた。

  秩序を生み出す究極の存在や権威すなわち「神なるもの」がフィクションである以上、人間による世界の真理に関する認識もまた、1つの仮構にすぎないのかもしれないということだ。カントの『純粋理性批判』以降、真理とは「人間の知性の側に組み立てられた構成物」であって「外界の世界の精神への作用の1つの結果」にすぎないという認識方法も確かな地位を得てきた。
  認識された真理とは、結局のところ、人間の主観=精神の側に独特の論理的加工を経て映し出された像にすぎない。現実そのものではないということだ。
  私たちは、論理や物語の形で、現実世界のなかから選択的に抜き出した事柄を関連づけるだけのことではなかろうか。
  何を「選択」するかは、その人ごとの価値観によるが、その人ごとの知覚能力にもよる。そもそも知覚じたいに限界があって、その限界のなかからの選択だとすれば、さらに人間の認識射程は狭まることになるだろう。しかし、知性をもつがゆえに人間は、事象を自分が選択した文脈のなかに置いて眺めたがる傾向がある。

  人間は事象を認識するときに、往々にして無意識・無自覚にある特定の判断基準パラダイムをや価値観を前提に置いてしまうものだ。犯罪捜査もそうだ。予断あるいは先入観をもって、事件の要素を眺めてしまうのだ。本質から外れた偶発的で付随的な要素にばかり注意を向けるという陥穽にはまることもある。
  だから、もし犯人またはその幇助者が犯罪を捜査する者たちに、事件の様相――事件の性質や動機、犯人像――を事実とは違う方向に誘導するような痕跡を現場に残したとすれば、犯罪の解明や捜査は混乱するだろう。

  そういう視点から、犯罪事件を眺めてみたらどのように描かれるか。そんな視角から2つの映画作品を考察してみよう。

オックスフォード連続殺人

  アメリカ合衆国アリゾナ州出身のマーティンは、博士論文執筆のためにオクスフォード大学の学寮に入学した。研究課題は、数理論によって現実世界の真理を認識できる、人間による客観的真理の把握は可能なのだということを論理的に証明することらしい。
  だが、オクスフォードの町に来てみると、論文の指導教授になってほしいと憧れていたアーサー・セルダム教授はマーティンの考えとは逆に、人間の真理認識に対して深い懐疑と絶望を抱いていることがわかった。教授の論文をすべて読みまくり、方法論を熟知していたはずだったが、マーティンとしてはとんだ期待外れだった。
  しかも、下宿先の家の持ち主の老女ジュリア・イーグルトンが殺害されてしまった。皮肉なことに、ジュリアを訪ねてきたセルダム教授といっしょに、殺害された老女の発見者となってしまった。
  こうして、殺人事件の犯人探し、事件の背景の調査に引きずり込まれることになった。これまた皮肉なことに、セルダム教授の指導・助言のもとに。

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