ところが、ある日カフェでレンチのあとで支払いをしようとしたデッカーは、自分の財布のなかに色のついた10ドル札を見つけた。銀行強盗事件の証拠品として警察に保管されていた紙幣の1枚だった。
そういえば、この札は、コナーズとカフェに入ったときにコナーズが支払いのために出した札だった。コナーズが証拠品の紙幣をもっていた。
ということは、ヨークとコナーズは共犯ではないか!
してみれば、ヨークが死んだ今となっては、コナーズが10億ドルを独り占めして外国に逃げだす算段をしているはずだ。
デッカーは、ただちにコナーズの高跳びを阻止するための手配手続きを取った。だが、手遅れになったかもしれないとも考えた。
デッカーはシアトル空港に駆けつけて、コナーズを捜索した。だが、世界中への国際便が発着する巨大空港でコナーズを探し出すのは不可能だった。
焦って空港ターミナルビル中を走り回るデッカーに気づいたコナーズは、高みの見物をしながら、デッカーに携帯電話を入れた。
「残念だったね。しかし、君は実によくやった。真相を突き止めたのだから。一見何の脈絡もないように見える事象の背後にある犯罪意図を突き止めたのだからな」
称賛の声を残して、コナーズはメクシコ行きの小型リアジェットに乗り込んだ。巨額の金を手に入れたコナーズには、このあと死ぬまでの長いヴァカンスが待っているのだろう。
コナーズの「完全犯罪」が成功したところで、映像は終わる。
コナーズとしては、ヨークがデッカーを罠にはめようとして、かえって墓穴を掘ることまで見通していたのかもしれない。いや、共犯者だが粗暴すぎてそりの合わないヨークの死を望んでいたふしがある。
デッカーにヒントを与えて一連の事件の背後に潜む陰謀を暴くように仕向ることで、負けず嫌いのヨークにデッカーを襲撃させて相討ちにさせるか、ヨークを死にいたらしめることを企図したのではなかろうか。