《犯罪》の認識論 目次
犯罪捜査の認識論
取り上げる映画作品
私たちの視座
オックスフォード連続殺人
  ヴィトゲンシュタイン
  事件の実体を隠すために
  連続事件の舞台 その1
  連続殺人の舞台 その2
  招き寄せられた惨劇
  マーティンが見出した真実
認識論をめぐる論争
カオス(ケイアス)
  増えていく死体
  背後に潜む策謀
  高跳びするコナーズ
犯罪(捜査)と認識論
一般自然科学と数学
後追い的な真理への接近
ピュタゴラス教団について
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◆背後に潜む策謀◆

  コナーズを失った捜査陣は手詰まりになった。
  シェイン・デッカーは、これまでに起きたいくつかの事件が外見上、何の関連や脈絡もないように見えながら、背後に一貫した犯意=目的意識が隠されているのではないかと、一連の事件を見直すことにした。
  偶発的な事件の連鎖の背後に潜む文脈を読み解くという発想は、多数ある「カオス理論」の1つで、数学者、エドワード・ノートン・ローレンツが確率論の問題として提起した方法に依拠したものだった。デッカーは、ローレンツのカオス理論をほのめかす暗示に誘導されているのかもしれない。

  というのも、銀行襲撃犯のボスであるヨークがローレンツと名乗り、立てこもり時の電話交信のときに彼は「カオス理論」を話題にしたからだ。さらに、コナーズの相棒――というよりも監視役――となってから打ち合わせのために2人でカフェに立ち寄ったときも、数学的視角からの「カオス理論」について話し合ったことがあったからだ。

  とはいえ、物語のなかでの「カオス理論」のこのような扱いは、やや突飛である。取ってつけたような扱いとなっている。
  ローレンツが提起した方法を乱暴に簡略化すれば、こういうことになる。
  外見上、つながりや連関がないように見える一群の出来事の背後には一定の秩序や文脈がはたらいていることがある。それは、確率論的に論証できる場合があるというのだ。つまり「混沌=カオス」のような現象群の背後にはたらく傾向性や連関を見いださなければならない、」というわけだ。
  こんな面倒な理論を引き合いに出さなくても犯罪捜査とはそういうものであるだろう。だが、刑事ものが多い映画作品のなかで商品としての訴求力を持たせるために、カオス理論と関連づけて題名と物語を設定したのかもしれない。

  シェイン・デッカーはこの間の一連の出来事を並べてみた。
  ・わざわざ殺人罪と傷害罪、拉致罪を犯しながら銀行資産に手をつけなかった襲撃強盗事件
・強盗団の仲間の「コンピュータおたく」が最初に殺された事件
・強盗団に報酬として支払われた現金が警察保管庫から持ち出されたものだったこと
・カロがあたかも強盗団の仲間であるかのような状況証拠を残して死んだ事件
・背後で免職になった元刑事、ヨークが策謀をめぐらしているという推定


  これらの事柄を関連づけて検討してみたデッカーは、グローバル銀行のコンピュータ・システムが強盗団によって操作介入されたのではないかと推測して、市警で情報システム解析による鑑識を担当している係官に解析を命じた。

  長い時間をかけた解析の結果、事件の最中に、銀行のコンピュータ・システムに特殊な誤作動を催すヴィールス・プログラムが仕込まれたことが判明した。銀行の1000万口におよぶ口座から100ドルずつ匿名口座に送金されるようにしてあったのだ。
  取引は1口座当たり1回だけで、しかも100ドルだけの送金なので、違法送金や窃盗、資金洗浄犯罪マニーローンダリングの検出システムには引っかからないのだ。しかし、総額で10億ドルの現金が盗み出されることになった。襲撃犯一味に天才的なハッカーいたことの意味がこれで理解できた。
  そういおう手口でヨークは大金をせしめることになるのだ。
  一方デッカーは、警察の保管庫係官を尋問して、ヨークがカロの偽名で借りだしたことを突き止めた。つまり、ヨークが銀行強盗団をこの金で雇い、襲撃とコンピュータ・ハッキングを仕組んだわけだ。すると、カロの自殺も疑わしい。

■ヨークの策謀の頓挫■
  ヨークとしては、不正送金で集めた大金を――ケイマン島経由などを経由させて送金経路の痕跡を消すことで――でせしめて、さっさと外国に逃亡すればよかった。だが、闘いで勝ちたいという願望が強いせいか、事件の背景にまで迫ってきたデッカー刑事を始末しようと画策した。
  ヨークはデッカーを埠頭の倉庫まで誘い出して殺そうとしたが、図に乗って油断したため、逆に返り討ちにあってしまった。桟橋での乱闘の末に撃ち殺されてしまったのだ。
  これで、一連の事件の首謀者が死亡したために、事件捜査は幕引きとなるはずだった。

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