華氏451 目次
本が燃える日
原題について
時代背景と原作者の問題意識
ファーレンハイト
モンターグ
クラリス
日常性と秩序への疑問と批判
「本とともに死す」
迷うモンターグ
反   逆
「本の人びと」
映像作品としての特徴
原作の物語世界と映画
「核の冬」について
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コーマ
評  決

モンターグ

  未来のアメリカ社会。
  ガイ・モンターグの仕事はファイアーマン。この時代には、建築物はすべて防火・耐火設計を義務づけられている。防火・耐火設計になっていない建築物は、ほとんどなくなり、残っているわずかな古い建築物は逐次、居住を禁止され、建て替えられていく。
  つまり、建築物の火災はほとんど消滅した社会なのだ。
  では、ファイアーマンの職務は何かというと、「社会秩序に対する危険の予防」で、具体的には、所有や製造を禁止されている書籍の焼却である。一般市民からの通報(密告)によって書籍を保有している人物や場所が発覚すると、その場所に行って書籍を探し出して燃やして処分するのだ。

  この時代のアメリカ社会では、現存の安定した平穏な秩序への疑問とか批判、あるいは不安や不満を人びとの精神・心理から徹底的に排除するレジームが成立している。ファシズムとは別種の全体主義的体制( totalitarian regime )が支配している。
  政府は、人びとを批判精神や論理的・歴史的思考から極力遠ざけるために、情報メディアを全面的に統制し、書籍の製造や所有、貸し借り、読書を厳しく禁圧していた。
  その代わりに、テレヴィジョン(壁に設置された大型スクリーン)をつうじて娯楽的な情報を提供して、人びとを刹那的な娯楽と安逸の洪水になかに引きずり込んでいた。


  一方、社会の風紀や秩序を乱す行為に対しては、ファイアーマンだけでなく、身だしなみ・服装などの統制官を配置して、厳格に監視し取り締まっていた。たとえば、男性の長髪は禁止され、長髪の青年などを見つけると、統制官たちが寄ってたかって捕捉し電動バリカンで髪の毛を短く刈ってしまう。
  ブラッドベリーの原作では、人びとの行動を監視するさまざまな装置や機械がいたるところに設置・配置され、人びとは絶えず厳しい監視と統制の目にさらされている。映画では、それはほとんど描かれることはない。

  さて、主人公のガイ・モンターグは、この社会では模範的な市民で、レジームが教え込んでいる価値観を疑うこともなく、誠実従順にファイアーマンの職務を果たしている。職務の成績はすこぶる良好で、そのため近く昇進する予定だ。
  今日も、市民の通報を受けて、ある集合住宅の一室に出向き(住人は直前に逃げ出して部屋はもぬけの殻だった)、隠されている書籍を探し出し、ひとまとめにすると、火炎放射器で焼き尽くした。
  だが、秩序の強制者=擁護者としてのファイアーマンは人びとから恐れられ、煙たがられていた。

  モンターグは都市の郊外の閑静な住宅地に暮らしていて、美しい妻リンダがいた。リンダは専業主婦(?)でいつも自宅にいて、テレヴィスクリーンが流す娯楽情報に浸り、あるいは気分を良くしたり快眠をもたらす薬を服用していた。それは、この時代の人びとの、ごく当たり前の生活だった。
  毎朝届けられる新聞は全ペイジがカラーで、文章は少なく、ほとんどはカトゥーン(漫画)だった。人びとは映像とか視覚文化(ヴィジュアリティ)に溺れていて、およそ論理的な思考とか批判・創造とは無縁な生活を送っていた。

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