華氏451 目次
本が燃える日
原題について
時代背景と原作者の問題意識
ファーレンハイト
モンターグ
クラリス
日常性と秩序への疑問と批判
「本とともに死す」
迷うモンターグ
反   逆
「本の人びと」
映像作品としての特徴
原作の物語世界と映画
「核の冬」について
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評  決

本が燃える日

  人びとから個性や批判精神・創造性を奪い取れば、どうなるか。あるいは、政府の統制を強めて、差異をなくし画一化した生活や行動様式のなかに人びとを封じ込めれば、どうなるか。これらの方法は、社会に「秩序」と「平穏」をもたらすものになるだろうか。人びとに目先の快適で安全な生活と娯楽をもたらす制度、それはじつは精神の自由、行動の自由、思想・思考の自由を奪う仕組みでもある。その危うさを描いたのが、「華氏451」だ(1966年作品)。

原題と原作について

  原題は Fahrenheit 451 (ファーレンハイト451)。オリジナルは英語版の作品だが、古い温度の計測基準の「華氏」は、原語はドイツ語で物理学者の名前「ファーレンハイト」(ダニエル・ファーレンハイト)から来ている。
  原作は Ray Bradbury, Fahrenheit 451, 1953 (レイ・ブラッドベリー著『華氏451』、1953年刊)。

時代背景と原作者の問題意識

  物語の舞台となっている社会、未来のアメリカでは「平穏で安全な社会秩序」を維持するために、政府が人びとの生活の細部にいたるまで厳格に規制管理している。そして、政府の統制は情報媒体にも強くおよんでいる。
  とりわけ書籍は、批判精神や不安心理をもたらし増幅する情報媒体として厳しく禁圧され、その所有や保存、読書は罪悪とされている。そのため、書籍は当局によって発見されしだい焼却処分され、保有者は矯正のために精神病院に送り込まれて、洗脳(順応への強制)を強いられることになる。
  この書籍の取締りと焼却を専門の職務としているのが、ファイアーマン(現代では「消防士」だが、この時代には「操火士」)だ。

  ブラッドベリーは、社会の不寛容化と画一化が進むと社会活動の細部のまで統制がおよぶ全体主義レジームに行き着くという危険があると見ていたのかもしれない。
  1940年代後半から50年代にかけて、厳しい東西冷戦構造ができ上がり、アメリカではマッカーシーが主導する「赤狩り」が繰り広げられた。第2次世界戦争で「民主主義」がナチズムやファシズムを打倒した直後に、鉄のカーテンの東西で「不寛容なレジーム」が構築されていった。
  一方で、テレヴィなどのマスメディアやエンターテインメント産業の発達は、目先の刹那的な快楽や欲望満足によって、人びとから論理的思考や批判精神を奪い去るのではないか、という懸念が広がった( mass-society theory )。
  とりわけ「テレヴィ文化」――当時はごく単純な映像方法論しかなくて、「総白痴化」が懸念されていた――の普及が、やがて人びとから読書とか論理的思考、文脈的思考、豊かな情操を奪い取ってしまうのではないか、と心配した。その魅力が、社会の画一的統制をもとめるレジーム(政府)によって――画一化された娯楽によって民衆心理を誘導する体制づくりに――利用されるのではないか、と。

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