ビールの自殺事件の直後のある真夜中、ガスコインの対宅の窓からレンガに巻きつけた脅迫状が投げ込まれた。「お前も裁きを受けろ」と報復を宣言する文面だった。
被害届を受けて、フォイルたちはこの脅迫事件の捜査を始めた。
判事として強硬な保守派で通っているガスコインは、裁判の判決で多くの者たちから恨みを買っているだろうということで、フォイルはミルナーに過去の判決と有罪となった容疑者のリストの作成を指示した。
なによりもまずつい先日、兵役拒否の申し立てを却下されたうえに収監を命じられたために自殺した、デイヴィッド・ビールの妻や関係者を洗うことにした。
デイヴィッドの妻フローレンスは、反戦平和思想家(理想主義者)たちが運営している共同農場で働いていた。フローレンスは根っからの平和主義・非暴力主義者なので、今回の乱暴な脅迫に関与している様子はなかった。
事情聴取の前にフォイルはフローレンスに謝罪した。
「署の警察官がデイヴィッドを暴虐し、追い詰めてしまったことに対しては、深く謝罪します。
その警察官には厳しく責任を問い処罰します」と。
だが、農場にはビール夫妻の親しい友人で、歯に衣を着せないものの言い方をする過激な平和主義者であるテオ・ハウワードがいた。彼はフォイルの事情聴取に際して、デイヴィッドを収監したガスコイン判事を強く非難した。
「デイヴィッドは前途有望な作家だったんだ。すぐれた詩は高く評価されていたんだ。そんな彼を絶望させ、自死に追いやった判事は許せない」
まもなく、ミルナーがガスコイン判事がらみの裁判と容疑者のリストをフォイルに提出した。
それによると、最近、ガスコインが法廷で厳しく処断したヒュー・リードが少年院から出所してきていることが判明した。リードは知り合いに「判事に報復してやる」と息巻いていたらしい。
さらにガスコインは良心的兵役拒否の申し立てに対しては、1件の例外を除いてすべて拒否の判決を下していた。
フォイルは事情をガスコインに尋ねたが、守秘義務を盾にとって返答をにべもなく拒否された。そこで、兵役拒否を認められたただ一人の人物の父親、レイ・ブルックスに事情聴取することにした。レイ・ブルックスは、義勇国防隊の指導部としてフォイルとは知り合いだった。
ブルックスはフォイルにこう説明した。
「息子は唾棄すべき卑怯者だ。軍隊に入ったら、銃を持つのも拒否すると言い立てている。あいつは良心によって兵役を拒否しているわけではない。
そんな息子だから、兵役から外して片田舎での厳しい労働奉仕をさせるべきだとガスコインに助言したのだよ。もうあいつとは親子の縁を切った。どこに住んでいるかも知らない」