刑事フォイル第3話 目次
第3話 兵役拒否
兵役拒否者の死
ビール自殺事件の捜査
権威主義者ガスコイン
戦時体制への市民の組織化
イタリア料理店
疎開してきた少年
ガスコーニュ家脅迫事件
少年爆殺事件
名門家系が抱えるトラブル
「軍需工場」の謎
ローレンス射殺事件
ジョウのノート
ブルックスの判事買収
2つの殺人事件の真相
戦時下の悲劇
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戦時体制への市民の組織化

  映像では、ガスコインとフォイルとの関係を説明しながら、戦時体制下でいよいよ多くの一般市民を国防機構に組織化していく情勢が描かれる。
  フォイルはヘイスティングズ警察署ではトップクラスの階級にいるので、地区の名士として義勇国防隊――市民の自発的参加ヴォランティイアにもとづく地区の防衛組織――の運営委員をしている。フォイルは、この運営委員会のメンバーとなっているガスコイン判事とは知り合いだった。
  運営委員会にはもう一人メンバーがいた。ロンドンで大きな工場を経営しているレイ・ブルックスだ。ブルックスは、以前からガスコインと知り合いで親しいようだ。

  委員会では、ブルックスはドイツ軍の侵攻に備えて大がかりな対策を求めたがるが、フォイルとガスコインが抑え役に回ることが多い。
  ブルックスは第1次世界戦争でヨーロッパ戦線に出征し、軍功をあげて勲章を授与されたという。戦地を体験したせいか、ブルックスは厳格な防衛体制に市民を組織化していくべきだと考えているようだ。経済的に成功した実業家でもあった。

  その委員会の日にも、会議場の周囲では、ブルックスの提案で製造した防毒マスクを装着しての訓練が大勢の市民を巻き込んでおこなわれていた。
  そのシークェンスに描かれているのは、政府によって誘導される国防組織への一般市民の組織化や統合だ。
  もちろん義勇国防隊はヴォランタリーな住民の自発的な組織だが、政府と関係機関はその指導要領やマニュアルを発行・支給して、政府が望ましいと考える――戦時体制に適合した――住民の協力態勢を「自発的に」組織運営するように仕向けた。


  こうして、チャーチル率いる「挙国一致内閣」は、各地の指導部=運営委員会には、各地方で有力な――つまり影響力を持つ――個人や企業経営者、公官庁の幹部を呼び集め、一般住民の防衛協力活動を方向づけたのだ。
  まさに戦時こそ、一般市民を国民的に組織化し、国民国家としての政治的凝集性を強化するチャンスなのだ。
  とはいえ、義勇国防隊には、1個小隊に1丁のライフル銃、それも軍が型遅れだとして放出し払い下げたものが支給されたくらいだから、軍事力としてはさしたる意味はなかった。
  それにしても、ヘイスティングズのように英仏海峡沿岸でドイツ軍が上陸ないし潜入地点となりうる地方では、住民の政治的な組織化と防衛意識の高揚がひときわ求められたのかもしれない。

  このようにブリテンは、軍事的に敵対する国民国家ドイツに対して、臨戦態勢を敷くことで、住民の国民的規模での政治的結集を高め、国防イデオロギーを誘導して、日常の企業間の利害対立や階級闘争などの内部の紛争要因や対立要因を封じ込めていったのだ。
  世界史上最初に「国民国家」を形成したブリテン(イングランド)だが、国民国家という特殊な政治的構造が完成したのはまさに第2次世界戦争期から1960年代にかけてだった。しかし、それは資本の世界化が著しく進む状況下でのことで、完成とともに国民的統合は深刻な危機に直面し、ブリテンは国民国家としての存立を維持するためにECに加盟しようと必死に努力することになった。

  ところが今、ブリテンは、かつて国民国家の危機を回避するために――単独では国民国家のレジームを維持できないがゆえに――加盟したEU=ヨーロッパ共同体から「国民国家の主権を回復するため」という偽りの理由で離脱しようとしている。

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