刑事フォイル第3話 目次
第3話 兵役拒否
兵役拒否者の死
ビール自殺事件の捜査
権威主義者ガスコイン
戦時体制への市民の組織化
イタリア料理店
疎開してきた少年
ガスコーニュ家脅迫事件
少年爆殺事件
名門家系が抱えるトラブル
「軍需工場」の謎
ローレンス射殺事件
ジョウのノート
ブルックスの判事買収
2つの殺人事件の真相
戦時下の悲劇
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「軍需工場」の謎

  ところで、ピーターを調べてみると、彼は地元の怪しげな軍需品工場に勤務していた。怪しげなというのは、フォイルが工場に立ち入ってどんな職場か知ろうとすると、工場経営者は軍が公開を禁止しているという理由を持ち出して、立ち入ることを許さなかった。
  工場の出入り口にはいつも歩兵(歩哨)が立って警戒していた。政府が何かを秘密裏に発注していることは確かなようだった。
  しかもピーターは機械工だというのだが、彼の手指は危機油で汚れていることはなかったのだ。
  しかし、フォイルが警察組織を通じて軍の上層部から得た情報によると、軍はその工場に何も発注していないことが判明した。
  そこでフォイルは「殺人事件の捜査だ」と主張して捜査権を盾にとって工場に立ち入った。

  すると、政府がその工場に密かに発注していた製品は、兵器ではなく、遺体を納める柩だった。保健省が今後、ドイツ空軍の空爆などによって国内で夥しい数の死者が出ることは避けられないと見込んで、何千という量の柩を製造させていたのだ。
  多数の死者が出るのが不可避だという政府の見込みがもし世間に知れたら、すでに深刻な物不足と耐乏生活で疲弊している一般市民の戦意が一気に失墜し、戦時体制への協力も得にくくなるだろう。という理由で、政府は柩製造工場への一般人の立ち入りを禁止していたわけだ。
  そして、ピーターは木工職人だったのだ。

ローレンス射殺事件

  警察はローレンス・ガスコインが何者かに狙われているということで、制服警官とともにミルナーをガスコイン家に警備のために派遣した。
  ところがある日、ミルナーはスーザンから悩みごとの相談を受けた。ローレンスが頑迷な父親として娘の生活や振る舞いに干渉しすぎるというのだ。
  ところが、ミルナーがスーザンと親し気に会話しているのを見咎めたローレンスは、ミルナーを屋敷から追い出してしまった。
  そして、その真夜中、ローレンスは何者かに射殺されてしまった。
  翌朝、屋敷内の鍵がかかった部屋で判事が射殺体で発見されたのだ。


  その夜、疑わしい行動をしていた者は3人いた。
  ひとりはテオ・ハウワードで、その夜、怒りに任せて古いリヴォルヴァー拳銃を手にし、フローレンスの制止を振り切って外出したのだ。
  そして、アントーニオ・ルチアーノだ。彼はその夜、 ヒュー・リードと会う約束があると言って、これまた父親の小言に逆らって外出したのだ。ということは、アントーニオとヒューが2人でガスコーニュ家に押し入った可能性もあるということになる。
  警察は、ヒューとアントーニオを重要参考人として手配し、自宅にいたアントーニオが前夜の行動について黙秘したことから逮捕した。

  捜査から署に戻ったフォイルはアントーニオの逮捕を知って驚いた。というのは、サマンサから彼が兵役に志願する決心をしていることを聞いていたからで、そういう若者が人殺しに関与するはずがないと考えたからだ。
  フォイルはアントーニオを説得して前夜の行動を聞き出した。アントーニオはこう答えた。
  「ヒュー・リードがガスコーニュ判事を脅すために邸宅に忍び込もうと計画していたので、それを思いとどまらせるようとしてあの夜、何時間も説得していたんです。
  でも、こんなふうに逮捕されてしまったんですから、兵役志願は認められないかもしれないですね」
  「いや、君の潔白は疑いようがない。大丈夫だ、いますぐ釈放するよ。
  志願する決心をお父さんに話したまえ」とフォイルは励ました。
  息子が心配で警察署に駆け付けたカールロは、フォイルから事情を聴いて、安堵した。そして、フォイルに笑顔で語った。
  「兵役に志願する息子を誇りに思うよ。
  イタリアは私の故郷だが、ファシスト政権が英国に宣戦布告したなら、それと戦うのが市民の務めというものだよ」
  イタリアはその日、ブリテンに宣戦布告を発していた。

  イタリアの首相ムッソリーニは、ドイツがポーランドに侵攻した1939年9月から「中立宣言」をしていたが、再三のドイツの催促を受けて1940年6月10日にブリテンとフランスに対して宣戦布告した。こうして、ブリテンとイタリアは軍事的敵対関係に入った。
  イタリアのこのタイミングでの参戦は、一方で西部戦線ではドイツがフランスをほぼ全面的に制圧し、他方で東部戦線ではソ連・南欧に侵略を開始したという戦況の変化に応じたものだった。
  ナチス・ドイツはイタリア海軍を地中海での制海権を保持するブリテンへの対抗力として位置づけながら、さらに東部戦線の――ことにバルカン半島・黒海沿岸方面への――拡大に際して不足した兵力をイタリアの陸空軍の支援で埋めようとしたのだ。イタリアは狭いアドリア海を挟んでバルカン半島と隣り合わせているのだから。

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