ところで、激情に任せて拳銃を握って真夜中に外出したテオ・ハウワードだったが、結局、悩んで歩き回って明け方帰宅した。もっとも、手入れもされずに何年も放置されていた拳銃はあちこち錆びついていて、銃弾がまともに発射できるか当てにならなかったのだが。
それにしても、志操堅固な反戦平和主義を貫いてきたテオだったが、強い憎悪のために「殺意」を抱いたことに、自分自身驚き、苦しんでもいた。
さて、こうしてローレンス殺害の動機を持っていた者のなかで、実行に移した者はひとりもいなかった。
すると、誰がガスコイン判事を殺害したのか。
フォイルは、ガスコイン家をめぐって何でも調べてノートに記録していたジョウの行動に着目した。
ジョウが誰かにとって都合の悪いことを目撃し、記録した。そして、そのことをその誰かが知ってしまったため、邪魔になって殺されたのではないか、と推理したのだ。
それでジョウのノートの内容を細かく調べてみた。
ジョウのノートは、無秩序で混乱していて、他人が見ても何がどういう文脈で書かれているのか判別不能に見えた。 だが、ジョウの頭のなかにはその記録の読み取り方が入っているのだろう。
謎解きはフォイル警視正の専門だ。
ジョウのノートの記録を読み解いたことで、レイ・ブルックスがガスコインを何度か訪問したことが判明した。訪問日とレイの自家用車のナンバーが記されていた。
さらにレイがローレンスに2000ポンドを手渡したことも書かれていた。それは何を意味するのか。
翌日、フォイルはガスコイン家を訪い、スーザンにこの屋敷内に銃はあるか尋ねた。
「父の机のなかにいつもしまってありました。 でも、最近なくなってしまいました」スーザンは答えた。 こうして、フォイルの脳裏に事件の筋道が見えてきた。