そんなおり、ガスコイン判事の屋敷に寄宿していたジョウ少年が、屋敷の庭園内にある離れに仕かけられていた手製爆弾の炸裂に巻き込まれて死亡した。
フォイルの捜査では、その朝、ガスコイン判事あてに不審な電話があったという。「離れのなかに例の荷物置いておいたから、受け取ってくれ」というものだった。
その話をジョウは聞いていた。というのも、彼は「捜査のため」ということで、電話呼び出し音に対してはことのほか敏感で、ガスコイン家のものがどんな受け答えをしているかをつぶさに聞き取るのが習慣だった。
ローレンスは近くにいる妻に電話の内容を伝えた。「荷物を離れ屋に置いておいたから、受け取るようにという電話だったよ」と。
ジョウは、捜査のつもりで気になることはどんなことでも調べなければ気が済まない。いったいどういう中身の荷物なのか、これは調べずにはおけない。そう少年は思い詰めたようだ。
そこで、ジョウは荷物を受け取る前に朝食を取っているガスコイン夫妻の目を盗んで、離れに忍び込もうとした。ドアを開けた途端、ノブに針金で結んであった手榴弾のピンが外れ、爆発した。部屋ごと少年は吹き飛ばされてしまった。
痛みを感じる間もなく即死したのが、せめてもの救いだった。
すでに脅迫事件の届を受けている警察としては、ガスコインを狙った事件だと見て、判事に恨みを抱く者たちを絞り込んでいった。もちろん、動機を持つと思われる者たちのなかには、共同農場で働くテオ・ハウワードが含まれていた。そして、飛行履歴のあるヒュー・リードも。
とはいえ、フォイルは、手製爆弾は判事をねらったものなのか、それとも少年自身をねらったものなのかについては即断を控えていた。そして、脅迫事件と爆殺事件の背景を探り出していった。
その翌日、ジョウ少年の父親エリックがロンドンからやって来た。もちろん、息子の爆殺事件については知らない。
フォイルは駅でエリックを出迎えて、悲報を伝えた。
エリックは内心の当惑と憤りを込めて訴えた。
「息子を疎開させることには私はずっと反対していたんだ。だが当局が執拗に疎開を勧告し続けたし、妻も息子の安全のために必要だと言うから、息子をヘイスティングズに送り出したんだ。
息子の安全を守るためということだったのに、ここで爆殺されるなんて。何のための疎開だったんだ」
エリックは息子の殺害犯人が捕らえらることを期待して、警察が用意した宿に2泊した。だが、悲惨な事実が明らかになるにつれ、事件現場の近くにいることに耐えられなくなった。そのため、フォイルに駅まで送られ悄然としてロンドンに帰っていった。
駅での別れ際、フォイルはエリックに誓った。
「殺害犯は警察が必ずとらえて、刑罰に服させます」と。