ガンディ 目次
国民形成への苦難の道
見どころ
インド…錯綜した複合世界
「インド洋亜世界システム」
ブリテン東インド会社の進出
会社の支配から国家の植民地支配へ
南アフリカと英連邦
植民地帝国の解体への兆し
インドへの帰還
非暴力=不服従とサティヤガラ
茅屋で木綿を紡ぐ
インド独立への動き
されど断裂するインド
ガンディの苦悩と選択
独立と分裂
独立達成とガンディ暗殺
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国境と国籍性の障壁
マンデラの名もなき看守

非暴力=不服従とサティヤガラ

  ガンディの行動スタイルあるいはめざした運動形態は「サティヤガラ」と呼ばれる。
  サティヤガラとは、ヒンドゥの古語(サンスクリット語)で、「真実の追求」「求道」「理想を真摯に求め続けること」という意味だという。
  ここでは、真実=理想をインドの独立と多様な民衆の統合だと解釈すると、サティヤガラの目標はインドでの独立した国民形成ということになろうか。非暴力=不服従という運動形態――多分に運動の担い手の精神的態度、行動スタイルに依存するということ――は、サティヤガラの内容からして必然的なものという論理になりそうだ。
  実力による抵抗を極力避けるという運動形態は、担い手の高い知性や精神性を求めることになる。それゆえ、非暴力=不服従は、消極的・受動的な異議申し立てではない。憤懣の暴発としての粗暴な抵抗や反乱を回避して、内部統制のとれた平穏な運動形態を意識的に組織する能力が求められることになる。
  その意味では、高い知性や精神的訓練を経たエリート向きの運動形態ともいえる。インドのインテリ層の知的水準がすこぶる高かったという事情をは反映しているのかもしれない。

  ところが、貧困な、それゆえ教育水準がきわめて低い多数の民衆を抱えるインドでは、きわめてむずかしい運動形態だっただろう。その後の事態を見るとき、インドの民衆のどれほどがサティヤガラを理解していたかは、疑わしい。
  あるいは、インド民衆はとびきり高い知能をもっているのか?


■ブリテンの植民地支配とソルト・サティヤガラ■
  さて、サティヤガラ運動で画期的な事件は、1930年3月から4月の「ソルト・サティヤガラ」だ。
  ガンディらが始めた非暴力・不服従の異議申し立てで、製塩の自由を求めて、多数の民衆が内陸部から海岸までの長い旅をする運動だ。海水から塩をつくるために人びとが海岸まで歩き、浜辺で昔ながらの方法で塩をつくるという運動なのだが、この運動はブリテンの植民地支配への不服従=抵抗という点では、決定的に重要な意味を持っていた。

  というのは、東インド会社の時代から、インドで製塩と食塩の販売はブリテン商業資本の独占だったからだ。東インド会社の権力を背景として、製造と販売の独占(専売)によって、生存に不可欠な食塩の製造・流通・販売の全過程からまんべんなく税金を取り立て、巨額の剰余価値を集積して、当初は東インド会社の、続いて植民地政府(本国政府)の収入としていたのだ。
  この制度は、とりわけて貧しい階級の民衆の生活を圧迫していた。
  そのために、ブリテン当局は、海浜での住民の活動や商業活動に対して、きわめて厳格な監視と統制をおこなっていた。違反には厳しい処罰で対処した。
  その意味では、食塩専売制度は、ブリテンの植民地支配の過酷さの象徴だった。

  政治がシンボルをめぐる闘争ないしは駆け引きだとすれば、ソルト・サティヤガラは、まさに植民地的従属への痛烈な異議申し立てにほかならない。
  とはいえ、この運動は、直接的には食塩専売に直接的に反対するものではなかった。海浜まで歩くだけの運動だった。平穏に道を歩き続けるだけの行事だった。すっかり合法的な運動だった。
  しかし、はじめはガンディが逼塞する内陸のコミューン農園から歩き始めたときには、わずか数十名にすぎなかった集団は、数々の村々を過ぎ、町を過ぎていくにしたがって、参加者は膨れ上がり、海浜に到達する頃には数万におよんでいた。

  ムンバイ(ボンベイ)からおよそ400キロメートル北にあるアーメダバードからグジャラート西部の海岸まで、400キロメートルの道のりを歩く大行進だった。
  この運動は、インド人を搾取・収奪するブリテンの植民地支配の仕組みの不当性(不正義)を訴え、インド人自らがそういう軛からの独立・解放を意識し希求するという意思・願望を表明するものだった。
  このできごとは民衆の話題となり、町から町へ、村から村へと伝えられ広がり、支配され抑圧されている人びととしての連帯を拡大していった。
  一般民衆が参加するという点では、それまでの高度に精神的・知的なエリートの運動から民衆的な運動形態への質的な転換の試みだったといえるかもしれない。

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