ガンディ 目次
国民形成への苦難の道
見どころ
インド…錯綜した複合世界
「インド洋亜世界システム」
ブリテン東インド会社の進出
会社の支配から国家の植民地支配へ
南アフリカと英連邦
植民地帝国の解体への兆し
インドへの帰還
非暴力=不服従とサティヤガラ
茅屋で木綿を紡ぐ
インド独立への動き
されど断裂するインド
ガンディの苦悩と選択
独立と分裂
独立達成とガンディ暗殺
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現代世界の格差と差別の問題
国境と国籍性の障壁
マンデラの名もなき看守

独立達成とガンディ暗殺

  インドでのこうした動きに対応して、1947年6月、ブリテン連合王国議会でインド独立法が採択された――正確には「自治領法」で発効は8月。この法は、インド植民地がインドとパキスタンという2つの国民国家に分離してそれぞれ独立するものと認めている。現状追認だ。
  6月3日にはインド総督ルイス・マウントバッテン(副伯)が、インド植民地はインドとパキスタンに分離することになるという声明を公表した。
  インド植民地独立をめぐる政策と自治領法の策定過程では、インド国民評議会=ヒンドゥ側では極力、パキスタン領地域も含めての全インド独立を求めたが、もはやイスラム教徒多数派は単独にパキスタンとしての独立に向かって国家組織を形成していた。

  インド独立法が制定された直後の8月にパキスタンは国家としての独立を宣言した。一方的な宣言だった。とはいえ、収拾のつかない問題に関する、旧宗主国ブリテンの諦めにも似た承認・後援を受けてのものだった。
  しかし、インド=ヒンドゥ側の反発や憤りは激しかった。内戦とも(未成立あるいは形成途上の)2つの国家のあいだの戦争とも小競り合いともつかないような――領土の境界や辺境の帰属をめぐる――混乱・紛争が繰り広げられた。
  インドのパキスタンの2つの国家の独立宣言がおこなわれたことになる。ブリテン東インド会社は、その支配欲・権力欲にしたがってインド亜大陸の各地を見境なく、それまでの政治構造や宗教、文化などを一切無視して植民地に編合し、その後、植民地の統治はブリテン国家中央政府に引き継がれた。そして、世界情勢の変動のなかでブリテン政府はこの植民地を2つの国家に分割して独立させたのだ。
  国民となるべき政治体は、同じ母体から誕生したにもかかわらず、隣合わせで国境を接して敵対・反目し合う2つになった。その原因はブリテンの植民地支配にあるのだ。


  「2つの国家・2つの国民」のあいだの敵対と紛争をやめるように求めたガンディは、断食を始めた。
  ガンディへの配慮もあって1948年1月に紛争は一応終結する。
  1月3日、断食を停止したガンディは新年の祝祭でにぎわう広場を訪れた。マハトマを敬愛する多数の人びとが、ガンディの周囲に集まった。そのなかにいたヒンドゥ教徒の1人の青年が、ガンディの前でひざまづき、いきなり立ち上がるとガンディに銃弾を撃ち込んだ。マハトマは無残に暗殺された。
  青年の名は、ナトゥーラム・ゴゼ。ヒンドゥ・ナショナリズムの過激派――「全インドヒンドゥ会議:マハーサブア――に属していた。
  映画では、この組織の指導者と思しき長老の指示にしたがって、狂信的な「愛国心」に凝り固まった青年が銃を隠してガンディに近づく様子が描かれている。
  「ヒンドゥ原理主義者」からすると、ガンディはムスリム派に対してあまりに譲歩をしすぎたために、ヒンドゥ=インドは多くのものを失ったということになるらしい。
  こうして、ガンディが提唱・誘導した「非暴力(=不服従)」という運動形態は、悲劇的な終焉を迎えることになった。

  国家形成ネイション・ビルディングというのはつまるところ権力構造の構築過程であって、形成運動の中核には強烈な「国民意識ナショナリズム」ともいうべきイデオロギーがある。国民意識とか国家意識というのは、別の国家ないし国民との対抗を意識する心理・心性であって、強い対抗意識とか排他的な――ときには敵対意識丸出しの――イデオロギーである。それが宗教的な熱狂や排外主義と結びつくこともある。
  そういうナショナル・イデオロギーなしに生まれた近代国家は1つもない。ナチズムを極端な典型として、1つの国民は生き残り競争のなかで自己の生存圏域を手に入れ維持するために他者を犠牲にし踏みにじることをいとわない。
  それが事実だ。日本も例外ではなかった。現在のたとえば中国国家の姿は、100年少し前の日本の姿と似ている。周辺諸地域を圧迫し侵略し、収奪することで自らが生きるための糧を得ようとする傾向が強い。
  政治的=軍事的単位としての国民国家の形成は、こうした排外主義的・暴力的な側面・悲劇が必然的にともなうというのが、歴史の不可避的な傾向らしい。甘い理想主義では語れないのだ。相手への敵対感情が自己のアイデンティティの核にあるのだ。

  現在、インドとパキスタンは互いに核武装をして相手を威嚇し合う国家どうしの関係にある。カシュミール地方などをめぐる国境紛争もいまだに続いているし、ときには互いに相手側の社会統合や平和を破壊しようとテロをおこなったと非難し合っている。
  この敵対関係は、以上に見てきた事情・経緯からすると、国家意識の核心にあるいわば「宿痾」のようなもので、この世界から宗教がなくなるか、あるいは国民国家という政治構造が解消され世界政府ができるまでは克服されることはなないだろう。

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