ガンディ 目次
国民形成への苦難の道
見どころ
インド…錯綜した複合世界
「インド洋亜世界システム」
ブリテン東インド会社の進出
会社の支配から国家の植民地支配へ
南アフリカと英連邦
植民地帝国の解体への兆し
インドへの帰還
非暴力=不服従とサティヤガラ
茅屋で木綿を紡ぐ
インド独立への動き
されど断裂するインド
ガンディの苦悩と選択
独立と分裂
独立達成とガンディ暗殺
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国境と国籍性の障壁
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国民形成への苦難の道

  島国の日本では、自分たちが国家ステイト国民ネイションを形成していることの歴史的意味について、ことさら考えることもないようだ。だが、人類史のなかで一定の地理的範囲の住民たちが国民国家として――政治的・軍事的・イデオロギー的・文化的に――組織化されているのは、すぐれて特殊な歴史的状況なのだ。
  マスメディアが一般民衆や人民、市民集団のことを「国民」という用語で平然と報道している、さらにアカデミズムでもそのように表現している、日本の社会では、国民が国民たる集団的アイデンティティーや歴史的構造の意味をことさらに問われることもない。

  今回は映画『ガンディ』(1982年)―― 原題 Gandehi ――の伝記的映画をつうじて、国民形成 nation-building / national-formation を達成することの苦悩や難しさを考えてみよう。
  政治的・軍事的単位あるいは統治の枠組みとしての国家なるものが存在していることは、そのままただちに「国民」が形成されているということを意味するわけではない。かつての南アフリカ共和国のように、アパルトヘイトによる政治的断裂によって住民が敵対的に分断されている社会状況もあるのだ。統治レジーム自体がそっくり抑圧装置になっていて、人びとの国民としての政治的結集が組織されていないのだ。
  この問題については、ネルスン・マンデラを描いた作品に関する記事を参照してほしい。南アフリカの反アパルトヘイト運動とインドの独立運動とは相互に密接に結びついているのだ。
  ブリティッシュ・コモンウェルスに属する南アフリカでガンディが酷い人種差別を受けた経験がもとになって、植民地という屈従状態からインドは独立しなければならないという課題と政治意識が生まれてきたからだ。

見どころ

  映画『ガンディ』の素晴らしい点は、単なる偉人伝ではなく、インド独立の指導者、ガンディたちがインドをブリテン植民地帝国から独立させ、おそろしく多様で分裂した諸地方・諸民族を1つの国民 nation へと政治的に統合=形成していくうえでの苦難や困難を率直に描き出したところにある。
  そして、独立運動過程で直面した困難や苦悩の多くは、まさに今現在、経済発展が目覚ましいインドがいまだに抱え込んでいる未解決で深刻な問題なのだ。
  そんなことをあらためて考えさせてくれる作品である。

  さて、欧米列強諸国家が「植民地体制」という統治スタイル(レジーム)を放棄し転換したの最大の原因は、人道的・道義的なところにあるのではない。植民地統治のリスクとコストが支配する国家にとってもはや耐えがたいほどに過重になり、その維持が――深刻な財政危機を核として――自国内の統治の崩壊の危機に結びつきそうなほどになったからなのだ。
  そして、独立運動=闘争が成功したのは、それが憤激に駆られた破壊的・暴力的闘争ではなく、住民の日常生活や意識の変革を静かに着々と地道に推進する「非暴力運動」が軸心となったからだ。

  国民評議会派を中心とする独立運動によって、ブリテンのインド植民地支配は恐ろしくコストのかかる政策となった。
  臆面もなくいたるところに「正義」の理念を掲げる「大ブリテン帝国」を標榜する統治は、東インド会社の利潤本位の支配と比べて、出費がかさむことになった。そこに第2次世界戦争が勃発した。
  ブリテンの財政と軍事力は疲弊し切り、広大な海外植民地帝国を諦め手放す状況に追い込まれた。ブリテンの支配階級は、インドを独立させる方法を模索し始めた。
  すると、多様性を抱えたインド自身は、自らをどのような国民=国家として形成するかをめぐって苦闘し、内部の分裂に苦悩することになった。独立の達成は、「国民形成」の過程のほんの始まりにすぎなかった。内部には多様な社会と恐ろしいほどの分裂・断裂構造を抱え込んでいたのだ。

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