ゴールィキーパーク 目次
政治体制と職業意識
原題について
見どころ
あらすじ
旧ソ連での刑事政策(犯罪理論)の変遷
  古典的刑法理論
  マルクシズムからの批判
  ソ連の古典的犯罪理論
  抑圧体制と政治犯罪
公園の惨殺死体
捜査線上に浮かんだ面々
検死解剖
女性の顔面の修復
事件捜査への闖入者
イリーナとアルカーディ
3人の被害者
ゴロドキンの悲劇
イリーナの危機
闇のネットワーク
最終決着
  
◆ゴールィキーパークへのオマージュ◆
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■古典的(ブルジョワ的)刑法理論■

  古典的な犯罪=刑罰をめぐる法理論――ヨーロッパやアメリカの「近代市民社会」――では、犯罪を含めた個人の行為について「自立した個人の意思」による行為であるがゆえに、その意思的行為について個人の責任を問い、刑罰を科しうるものと考えてきた。そして、市民社会の構成員はだれもが市民社会の秩序や約束ごとを知り、それを侵犯しない判断力や意思力をもっていると仮定している。

  ここで、犯罪とは、他者(人びと)の生命、身体および財産、権利について、その意思に反して――暴力や威嚇、不意打ち、欺瞞などによって――剥奪したり、損害を与えたり、蹂躙したりする行為であり、あるいは他者の意思に反してその不利益となる行為をさせることである。これには、平和な社会秩序、住民共同体の安全に対する侵犯なども含まれる。
  そこで、犯罪を犯した者は、――経済的取引きと同様に――自らの意思と判断によって、「刑罰を受けても仕方がないような行為」を選択したのだ、と見なされる。これを「意思の自由」とか「意思の自立性」という。
  つまりは、市民社会のなかでは、あらゆる人びとは対等に自由意志を持つ個人として想定されているのだ。だから、貧しい者が窃盗を働いても、金持ちが気まぐれに盗みを働いても、同じ窃盗ならば、その行為は同じように意思的な選択によるものと見なされ、同じ刑罰を科されることになる。

  こうして、各個人の意思の等価性には、可罰的違法性の等価性、したがってまた刑罰の等価性が対応する。そして、犯罪の程度、つまりは他者に対する侵害や秩序の侵犯・破壊の程度応じて、あれこれの程度の刑罰を受けることになる。
  この原則を規範化した法は、犯罪を犯した個人・集団に対してその可罰的違法性の程度に応じて刑罰を科すことになる。これが「罪刑法定主義」だ。犯罪と刑罰は等価交換のように照応するのだ。
  ところで、階級対立などの利害対立が渦巻く資本主義的レジームのもとで秩序維持の担い手である司法・警察装置は、犯罪などの秩序に対する挑戦や侵害を予防するために、心理的・物理的な威嚇手段として刑罰権を用いる。ゆえに、犯罪抑止のために重めの――過酷さの程度が大きい――刑罰を科すことになる。

■マルクシズムからの批判■

  ところが、人びとのあいだで財産所有や生活水準に格差が歴然としている社会――すなわち階級社会――で、はたして「個人の意思」は本当に等価なのか、満ち足りた階級と飢えに悩む階級とでは、教育水準や倫理観、そしてそれを裏打ちする精神的余裕の大小について、大きな格差があるではないか、という疑問と批判が提示されてきた。
  つまりは、個人の意思の内容は、基本的に、その個人が社会のなかで置かれた立場や利害によって制約されている、というのだ。とりわけ所有財産のあり方によって。

  この立場に立てば、市民社会のなかでの人びとの意思の等価性・対等性は、意思の社会的内容(の相違)を無視した「形式論理」にすぎないものとなる。
  むしろ、窃盗や強盗、利害目的の殺人や暴行、破壊などの行為は、基本的(究極的)に、私的な所有財産の格差によって敵対的な階級関係を生み出す社会体制の「歪み」によって、必然化するものだ、という見方が出てくる。
  もし、レジームの転換=革命によって、私的所有制度を廃止して財産関係を平等化すれば、人びとのあいだの利害や欲望の敵対性は失われ、自己の利害=欲望のために他人の利益や安全を犠牲にするような行為は消滅するであろう、というわけだ。
  あらゆる人びとが平等で安定した(それゆえに「満ち足りた」)生活状態に置かれれば、自分の利害・欲望のために他者の権利や尊厳を傷つける行為は消滅するであろう、というわけだ。
  平等な社会的環境で、階級格差や敵対を知らない「新しい人間(人類)」を育てていけば、犯罪を犯すような低劣な人格や意識は、人びとの精神からは消えていくであろうというのだ。社会主義的なユートピア思想ともいえる。

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