オズボーンは執拗だった。イリーナとアルカーディを罠に陥れようと画策した。
なんと、今回はKGB要員だけでなく検事局長のイアムスコイが手先となった。暗殺の場所は、深夜のモスクワ大学の敷地内。イリーナをおびき出したうえに、イリーナの窮地だといって、そこにアルカーディをおびき出した。
アルカーディは、オズボーンからモスクワ大学に呼び出されたイリーナを救い出すためにキャンパスに急行した。そこで、オズボーンの手先となっているのが、今回の捜査を指揮している検事局長イアムスコイだと知って愕然とした。
イアムスコイは、「今回の事件の捜査を打ち切って仲間になれば、大金を渡してもいい」と言い出した。けれども、アルカーディは拒否した。
そもそもはじめからイアムスコイはオズボーンと絡んでいたのだ。だが、事件をレンコから取り上げてKGBに引き渡したり、途中で捜査を止めさせなかったのは、明確な証拠を把握してオズボーンの弱みを握り、これまでとは「けた違い」の大金をせびり取るためだった。
じつはイアムスコイとオズボーンの繋がりは、第2次世界戦争中から続いていた。アメリカは、ナチスに対するソ連の抵抗力を強化し、大西洋側よりもロシアにナチスの戦力の主力を張りつかせ続けようとしてして、ソ連を援助した。そのための連絡将校がオズボーンだった。
ソ連から見れば、オズボーンは食糧援助や武器・製造技術などをソ連に提供してくれる恩人だった。こうして、オズボーンは、将来ソ連国家の要職に就きそうな面々と絆を培っていった。
しかし、オズボーンは自分の計画や目論見を妨害されると見境なく相手を殺すという習癖があった。彼は、ソ連軍の捕虜となったドイツ軍士官を3人虐殺したことがあった。その事件を揉み消したのが、当時情報部の少尉だったイアムスコイだった。
アルカーディは、イアムスコイの手口の汚さに憤っていた。一方イアムスコイは、自分の立場を曲げないで、どんな捜査もあきらめないで持続するアルカーディに手を焼いていた。これまで、アルカーディが国家権力がらみの犯罪をとことん追及したために、モスクワの党指導部に睨まれてしまい、イアムスコイはささらに上級のエリートになる道閉ざされてしまったのだ。
だから、激しい嫌悪が衝突し合う格闘になった。最後は軍用ナイフの奪い合いになり、イアムスコイは致命傷を受けて、池のなかに倒れこんだ。けれども、アルカーディもひどい重傷を負っていた。これだけの大立ち回りで死亡者が出たので、事件は病院と官憲に通報された。
アルカーディも救急車で救急治療室に運ばれた。