インサイドマン 目次
奇妙な銀行強盗
見どころ
あらすじ
いく人ものスティーヴ
ニュウヨーク市警察局
銀行会長アーサー・ケイス
闇の過去
警察と強盗団との駆け引き
強盗団の奇妙な行動
やり手弁護士の介入
フレイジャーの挑戦
大混乱に消えた強盗団
捜査の幕引きと疑念
ユダヤ人狩りとスイス銀行
なぜ、資料を秘匿保管し続けたのか
ユダヤ人団体の返還要求
ロスチャイルドの転身
強盗団は誰のために動いたのか
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諜報機関の物語
ボーン・アイデンティティ
コンドル

■ロスチャイルドの転身■

  ところで、
  ブリテンのシティ・オヴ・ロンドンに本拠を置くロスチャイルド・コンツェルンは、20世紀に入るとユダヤ人やイスラエルの利益よりも、世界金融システムにおける自己の優位の確保を求めて動いた。つまりこの1世紀間については、もはやユダヤ系資本としてではなく、アングロサクスン系資本として世界市場裡を動き回ってきた。
  このことからすると、まして第2次世界戦争後になると、巷間「ユダヤ人陰謀説」が言うように、ロスチャイルドはユダヤ人のためにその権力・影響力を駆使する、ということは、もはやなくなったことがわかる。
  少なくとも、ロスチャイルド家門は今や、その金融的権力を行使してユダヤ人の権謀を裏で操るとかいうことはないと見るべきだろう。ロスチャイルドはユダヤ系であることをやめて、パクス・ブリタニカとパクス・アメリカーナに照応して転身したということだ。

  すでに1910年代に、ブリテンのロスチャイルド家門はユダヤ系資本であるという狭い限界から抜け出した。宗教としてのユダヤ教に直接コミットすることは、もとより早くからなくなっていた。
  20世紀に入ると、ロスチャイルド家門はブリテン国民資本グループ、すなわちアングロサクスン権力サークルに参加したのだ。このサークルのなかでは、アングリカン教会(プロテスタント)という宗教的・政治的イデオロギーの担い手となって、政権や政財界の中核的役割を果たすことになった。もちろん、その出自を生かしてブリテン=アングロサクスン国家の利害とユダヤ人ないしイスラエルとの橋渡し役を演じたことはあるが、完全にブリテン権力側に足場を置いての動きでしかない。

  シティのユダヤ人有力金融家たち一般が、いまだブリテン国家・政府・財界の権力サークルから、暗黙のうちに疎外されているときに、ロスチャイルド家はアングロサクスンの王家から貴族の称号を受けて権力の中枢に居座ることができたのだ。もはや「ユダヤ人・ユダヤ系」ではなかったからだ。
  そして第2次世界戦争後、アメリカの最優位を保管する形でブリテンの金融当局とロンドン金融資本がブレトン・ウッズ体制を構築し支える戦略に踏み出すや、ロスチャイルド金融家門はアメリカの産業・金融資本グループと融合していった。


  どういうことか。
  ロスチャイルドは、つねに世界金融の最優位の地位を確保するためには、ブリテンがヘゲモニーを失いアメリカが新たなヘゲモニー・センターになった以上、アメリカ資本と融合するしかないと判断したからだ。ロックフェラー財閥やモーガン(モルガン)財閥などと結託するしかないというわけだ。そして、合衆国のの軍産複合体と連結するようになった。
  彼らは、アングロ・アメリカンの金融=産業ブロックの一角を構成するように転身した。そして、ブリテンとアメリカとの緊密な同盟の軸心の1つをなすようになった。ありていに言えば、ブリテンのアメリカへの産業的・軍事的従属を媒介するメカニズムの担い手となった。ロスチャイルド・コンツェルンは、リオ・ティント&ジンクのように核燃料、放射性金属、希少金属の世界市場への供給を独占する企業をアメリカ最優位の核戦略に融合させてきた。
  世界市場を運動する資本はコスモポリタンなのだが、経済的支配権力を維持するために政治権力装置との癒合や癒着をつねに必要としているのだ。

  ジョン・メイナード・ケインズはつとに、シティの金融権力のずば抜けた大きさが、ブリテンの産業成長・工業育成にとって、きわめて大きな阻害要因となっていて、不況とインフレの同時進行や雇用状況の低迷の原因となっていることを指摘し、嘆いていた。シティの金融資本は己の利益のために、ブリテンの製造業の所得や雇用をあまりに犠牲にしていると。
  いまやシティの金融権力は、アメリカの国家と資本の世界戦略に連動してブリテン産業への支配を媒介する役割を担うようになったのだ。

  というのも、アメリカにとってもブリテンの(世界的規模での植民地帝国を統治した)独特の力量、ことにロンドンの金融能力は、アメリカのヘゲモニーの弱点を補強するモメントとして位置づけられていたからだ。
  アメリカには、単独でロンドン・シティに対抗・凌駕して世界金融センターとなるほどの世界都市が育っていない。もちろん、ニュウヨーク、ワシントン、シカゴ、フィラデルフィア、サンフランシスコ、ロサンジェルス、テクサスなどの諸都市の金融機能・産業支配機能を合わせれば、ロンドンを優に凌ぐのだが、単独でロンドンに匹敵する金融機能を担う世界都市はない。

  そのため、合衆国は世界的規模でドルを基軸とした金融循環を組織化するうえで、ロンドンの機能、すなわちヨーロッパはもとより、アフリカ、アジア、オセアニア、南アメリカなどの金融・財政循環の組織化・誘導で果たすロンドンの大きな機能を利用するしかなかったのだ。
  途上国政府の大半が、1960年代になってもアメリカの金融都市ではなくロンドンで借款・公債の起債をしていたのだ。天然資源の多くを保有する途上国の金融財政へのロンドンの影響力は恐るべきほどに巨大で、じつに魅力的だったのだ。

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