映画作品『ジヌよさらば 〜かむろば村へ〜』は、いがらしみきおのマンガ『かむろば村へ』が原作。原作どおりに、じつに奇想天外な物語だ。
物語の筋は、脱臼し、よじれた骨をつないだような展開だ。「ええ、そうなるのかよ!?」「へえ、そういうのもありなんだ!」と予想を裏切りまくる展開なのだ。
先がまったく読めない展開に、私は先を読むのをやめた。
意外な大笑いや苦笑になること請け合いの奇想天外の物語だ。
そんな物語をつうじて、現代日本社会のありようを痛烈に皮肉り、徹底的に懐疑させる、じつに捻りの利いた批判精神が噴出する作品だ。
ところで「ジヌ」とは銭のことで、東北弁の訛った発音らしい。試しにあなたも前歯の上下を強く合わせて「ゼニ」と発音してみれば、たぶん「ズィヌェ」つまり、ほぼ「ジヌ」と聞こえてくるだろう。
要するに作品の題名は「ゼニよさらば」「金よさようなら」という意味なのだ。
東京で小さな銀行に勤務していた高見武晴。27歳の若者だ。東北地方の寒村「かむろば村」に逃げるように移住してきた。
高見武晴を演じるのは、松田龍平。都会のお坊ちゃん風の美青年。まじめだが融通が利かない若者だ。
ところが、;彼は「かむろば村」に近い鉄道駅を降りて、荷物を背負い抱えてバス停に立った。バス停のベンチには「猫になりてえ」とつぶやくチンピラの若者、青木と女子高生の青葉がいた。
「かむろば村」往きのマイクロバスがやって来る直前に高見は青木に言いがかりをつけられて絡まれそうになった。だが、バスの運転手によってチンピラは追い払われた。
「君があのボロ家に住むという人か」と高見に語りかけたその運転手は「かむろば村」の村長だった。彼が出した名刺には「村長 天野与三郎」と印字してあった。
その村は限界集落になる寸前の寒村で、小学校も病院も郵便局、警察もない。村の人口494人中198人が65最以上の高齢者なのだという。
村には最寄り町の駅や商店街、病院などに連絡する交通手段がないため、天野村長自らが毎日マイクロバスを運転して、ほとんど老人ばかりの乗客を運んでいるのだ。
そんな天野村長役を演じるのは、阿部サダヲ。熱心なのだが、どこかに投げやりな乱暴さが見える。
天野はバス停で、高見の荷物をもぎ取るように受け取ると、バスのなかに無造作に投げ込んだ。荷物の中身がいたんでも構わないという態度だ。
バスが村に入ると、山腹の丘に立ってカメラを構えている奇妙な老人がいた。「なかぬっさん」と呼ばれている「村の神様」らしい。この老人を演じるのは西田敏行。
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