ジヌよさらば 目次
奇想天外な物語
若者は「かむろば村」へ
「貨幣経済」からの逃避
カネよさらば……!?
青葉の誘惑
バス転覆事件
タケとなかぬっさん
バスの名前は「ほでなす号」
多治見の陰険な復讐
天野与三郎の逮捕
タケの立候補
なかぬっさんの死
「普通だな」
捻転する意思疎通
「ゼニよさらば」
経済成長なき金融膨張
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人生を省察する映画
サンジャックへの道
阿弥陀堂だより
アバウト・ア・ボーイ
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

「ゼニよさらば」

  さて、「ゼニよさらば」という生き方を選んだタケのライフスタイルは、この喜劇映画の一見「荒唐無稽」なプロットのように見える。しかし、……しかし、これには現代の世界経済の構造転換、資本主義という世界的な権力構造の変容ともいうべき事態についての実に深い洞察が含まれている。
  冗談ではない。
  すぐれた経済史学者のなかでも、この問題は文明の世界史的転換の兆候として、研究考察の対象となっているのだ。
  資本主義的社会システムの土台となっていると考えられてきた従来の貨幣システム=金融システムが今や機能麻痺し、崩壊と構造転換しようとしているのだと見られているのだ。
  最期にこれについて瞥見しておく。

◆貨幣=金融循環の著しい歪みと不均衡◆
  日本はバブル経済の破綻以来ずっと、超低金利……というよりもゼロ金利状態が続いてきた。それは蓄えられた貨幣が利子をもたらさない経済構造を意味する。
  言い換えれば、経済循環としては貨幣が資本としては循環しないシステムだということだ。資本として循環しないというのは、利子生み資本としては機能しない、または、利子生み資本の機能を失った貨幣循環だということだ。
  1000年以上前に、西ヨーロッパで地中海貿易の拠点諸都市で貿易商人のあいだの競争とか職人工房のあいだの競争という形態で資本蓄積のメカニズムが動き始めたときから、商取引をめぐるあらゆる貨幣片のやり取りは利子を生み出すようになった。
  貨幣の取引が資本の運動となり、利子という形態で剰余価値を獲得する運動、つまりは貨幣の自己増殖運動として現れるようになった。


  それはまた、より多くの貨幣を持つ者がより多くの剰余価値の分配=領有にあずかるものとする、特殊な権力構造がつくり出されたことを意味する。
  資本主義的経済における投資、剰余価値の生産と領有、再投資による拡大再生産すなわち資本蓄積は、支払う賃金以上の経済的価値を生産過程で生み出させ領有することによってもたらされる。利潤や利子は、貨幣など資産あるいは所有権の経済的運動の成果として現れる。貨幣・資産の所有者の当然の権利として現象する。
  生産過程や流通過程での権力の作用は覆い隠されてしまう。

  社会の人口が増大し続け、拡大再生産が持続して経済成長が続く限り、剰余価値は増大していく。その運動を媒介し円滑化・加速する経済的価値の表現手段としての貨幣は、運動するごとに、社会全体の剰余価値の一定部分を利子として獲得する権力を付与されていたのだ。

  ところが、20世紀の後半から、アメリカ主導で組織化された金融市場とその危機を回避する国際的な調整システム、そして各国家の金融政策は、金融恐慌を回避する仕組みをつくり上げた。
  貨幣資本=金融資産の価値の崩壊を回避する仕組みをつくり上げたのだ。それは成功裏に機能した。
  であるがゆえに、世界経済において金融資本の総量の膨張速度は、実体経済の成長速度を何倍にも上回る傾向を持続させた。その結果、実体経済が生み出す価値の何倍もの金融資本を世界金融市場に蓄積させてしまった。つまり、金融資本・金融資産のハイパーインフレイションを引き起こし続けたのだ。
  ことに日本では、実物経済での生産に直接は関与しない土地不動産の金融資産としての価値を過大に評価する構造的な傾向と、その金融資産のハイパーインフレイションとが連結・連動したため、金融資本の超過剰な膨張が起きた。それがバブル経済だった。

  だから、そのバブルすなわち金融資産の過大な価値評価の構造が崩れ去ると、金融資産の運動はもはや社会の剰余価値の分け前を利子として要求し獲得する能力を失ってしまった。
  その傾向は、人口の高齢化と減少傾向にともなう経済成長の停滞と結びついて、貨幣資本の運動には利子をつけることができない独特の金融市場の状況を生み出した。
  それは貨幣資本の運動に従前のような利子を付与すると、とたんに経済循環が麻痺し、決済循環が寸断し、大不況が発生してしまう構造となったことを意味する。

  実体経済の生産財や消費財の総価値よりもはるかに過大な金融資産が利殖機会――利率の高い金融市場や投機市場――を求めて全地球上を動き回る。それはコンピュータ・システムによって自動化され加速される。行き場を失いつつある巨額の金融資産が、投機市場を仕立て上げて特定の製造・サーヴィス部門あるいは先物市場になだれ込む。
  その動きは、企業や個人の実態的なニーズに応じてあれこれの生産部門に資金や資源が配分されるメカニズムを攪乱し、機能不全を起こす。たとえば原油市場やレアメタルなどの先物取引に恐ろしく巨額の投機資金が流れ込み、世界経済の実態に不釣り合いな価格の騰貴をもたらす。それは、民衆のニーズがあって投資を切実に求めている部門への資金や資源の配分を阻害する。

  こうして、投機ブームとなった部門では超過剰生産が発生し持続し、やがてバブルがはじける。一方で、民衆のニーズに見合う消費財・サーヴィスや生産財の製造は滞り、過少生産状態が固定化される。
  その結果、不均衡と停滞または成長の鈍化が持続するしかなくなる。そうなると、ますます金融資金の行き場は失われ、ギャンブル的な投機市場やディリバティヴ市場が創出され、金融危機のリスクは膨れ上がっていく。
  金融投機市場以外の領域では経済成長が鈍化または停滞するから、諸国家の金融当局は景気テコ入れのために超低金利・ゼロ金利状態を持続するしか選択肢がなくなる。

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