ところで、帰り際、亜希子は軽トラから三輪自転車をおろしてタケに「使ってくれ」と言って置いていった。亜希子を見送ったタケは、自転車のサドルに触れながら、そのサドルに亜希子が形の良いおしりを乗せる姿を想像していた。
それはつまり、タケの性欲がもたらした幻想だった。そんな劣情を抱いているところに、女子高生の青葉が自転車に乗ってやって来て、三輪自転車にぶつかった。
三輪自転車はぶつけられた衝撃のままに、坂道を走り下っていってしまった。
だが、走り去った三輪自転車には構わず、タケは性欲の対象を青葉に切り換えて、自宅に連れ込んで強引にキスをした。
数秒間、キスを受け入れた青葉だったが、それ以上に進むことを拒否して、タケの腕を振りほどいた。
そして、話題をタケの預金の話に切り換え、囲炉裏の脇に無造作に置いてあった預金通帳を手に取った。
そのまま腹這いに寝転んで、預金通帳を見ながら、身体を横に回転させた。タケの方に短い制服スカートからのぞく太腿や下着の尻を見せつけながら。
都会生活に疲れ果てていたタケだったが、性欲はばっちり旺盛だった。都会生活での疲弊は、若者タケの性欲を奪わなかったのだ。
そのタケは挑発に乗って青葉の身体にむしゃぶりついてしまった。けれども、またまた青葉に拒否されることになった。
まさに小悪魔的にタケを翻弄した青葉は、そのまま部屋を出ていったが、帰り際に振り向きざまに「また来るね」と言い置いていった。
ところが数日後、日本酒の一升瓶を抱えて青葉がタケのボロ家にやって来た。
一升瓶はお詫びの印だという。お詫びの理由はというと、昨日の誘いとキスは、タケの金をゆすり取るために、チンピラの青木の命令でやったからだ。つまり、美人局が目的だったというわけだ。
「でも、タケさんが好きなのは本当だ」とも言い訳した。
しかしそのとき、タケはこの村で「便利屋」で生業を立てようと一念発起し、
「なにも買わない。何も買わない」
「よろず面倒事 物々交換でなんでも請け負います」
という垂れ幕を書き上げたところだった。
で、顔を出した青葉にその垂れ幕を自慢げに見せようとしていた。
タケとしては、ようやく村人の役に立つ「便利屋」の仕事を立ち上げ、生きていく道を開拓できると気分高揚していたのだ。
だから、青葉の詫びの意味を飲み込めなかった。青木が青葉にタケを誘惑させて金をゆすり取ろうとしているのだ、という事情を理解するまでに時間がかかった。
青葉もまた、詫び言を言いながら、青木が来るまで時間稼ぎをしていた。
まもなく青木が現れて、先日タケが青葉の誘惑に乗ってむしゃぶりつこうとした場面を撮影したスマホの写真画像を見せて、この写真を公開されたくなかったら慰謝料100万円を払えと言い出した。
そして、預金通帳を持つタケを近くの町の銀行まで連れていって、100万円を引き出してこいと命令した。
青木は、あれこれ言い訳するタケをぶん殴った。ところが、そのシーンを「なかぬっさん」カメラに収めていた。