ところで腹黒の市会議員、青砥は前々から伊佐旅館の女将、奈津に傍惚れしていた。宴会の場に夏を読んでは、いやらしく奈津の身体に手を伸ばして関係を迫っていた。
だが、そのたびになかぬっさんの妨害に会って頓挫していた。
ところが、その夜の宴会で青砥が奈津に迫ってもなかぬっさんは現れなかった。ところが、その代わりに奈津の子、進がやって来て、青砥の浴衣のなかに数えきれない数のザリガニを押し込む妖術を使って、青砥を撃退した。
衰えて、この世から旅立とうとしているなかぬっさんに代わって、進がこの村の神様になろうとしているのだった。
一方、自分の最期が迫っていることを悟ったなかぬっさんは、いつものようにあの山林のなかの温泉露天風呂につかっていた。高齢で衰弱しているなかぬっさんは、この露天風呂につかって疲労を癒してきた。
その夜は、この村の出来事を写した何枚もの写真を見ながら、「人間は何をやってもうまくいかないのに、なにかすることをやめない。面白れえ生き物だなー」と独りごちていた。
すると、そこに大きな鳶口を携えた多治見が現れた。ひどく壊れ変形した頭部を包帯で覆い、さらにライダーヘルメットをかぶっていた。多治見は青砥から命じられて、村長選挙が終わるまで、なかぬっさんをどこかに拉致しようとしたのだ。村人はなかぬっさんの意見に従って投票するからだ。なかぬっさんは、青砥の策謀に反対するに決まっているのだ。
なかぬっさんは多治見に、「わしがきょう死ぬことはわかっている。 だが、人間が立ち入ることができないこのの場所に立ち入ったお前は死ぬのだぞ。それにしても、「人間はいいなー、終わりがあって……」と語りかけた。
つまり、勝男に頭部を激しく打撃された多治見の寿命が尽きようとしていて、それを予告しているのだ。案の定、しばらくすると、温泉の水面に多治見の死体が浮いていた。そして、なかぬっさんも水面下に沈んで消えた。
なかぬっさんは死んだ。というよりも、この世からいったん消えて、新たな若い肉体に宿って再生したというべきかもしれない。
その死を知った新たな村の神様、進は大声を発して、祖父の死を悼み大空を睨んだ。すると、大空から無数のザリガニが雨粒のように降り注いできた。ザリガニは村中に降り注ぎ、東京にまでそんな不思議な天候がおよんだとか。
村ではなかぬっさんの死を悼むために村長選挙を停止し、告示も無効にして選挙そのものを1か月先に延期した。