病院のベッドの上でタケは目が覚めた。包帯だらけのタケは、2週間の昏睡から意識を回復したのだ。看護婦がカテーテルを着脱していた。
ベッドの周りには、天野村長と亜希子、青葉がいて、心配そうにタケを見つめていた。さらになかぬっさんもいた。
タケはバスに同乗していて事故に巻き込まれた青葉に「ケガはないか」と尋ねた。青葉は、「大丈夫だった。でも、額に小さな傷ができて、それは一生消えないと言われた」と答えた。
「ぼくが責任取ります。……結婚ですかねえ。結婚します」 タケに惚れていた青葉は大喜びだった。
というわけで、ボロ家でタケと青葉の新婚生活が始まった。
◆バス購入騒動◆
それからしばらくして、ある日の村役場。 天野村長と助役の佐藤伊吉が暗い顔つきで相談していた。
「バスが壊れて使えなくなったけれども、新品はものすごく高価だ。代わりのバスは中古でも200万円もする。村の予算では無理だ。どうすればいいだべ……」助役は嘆く。
腕を組んで考え込んでいた天野は、決然と言い放った。
「よすっ、中古バスの購入代金は俺が払う」
「村長、でも、それは村政としては筋が違うんでねえけ!?」
「うるせえ……」
と揉めているところに、いそ子を引き連れたタケが訪れた。
「預金をおろしてきました。300万円あります。バスの購入にこの金を使ってください。 ボクは金を使うことができませんから、持っていても意味がありません。
バスの購入に使えば、村の役に立つし、金も生きるというもんです。」タケはそう言って、いそ子に札束が入った紙袋をテイブルに持っていかせた。
ところが天野は激しく怒り出して、タケに食ってかかった。
「おめえは結婚するんだろうが。結婚生活には金が要るんだぞ。このほでなすが!」
そこにいそ子が割って入って、「タケは失神寸前の状態で手足をもつれさせながら、何とか預金を全額おろしたんだよ。話だけでも聞いてあげてよ」と取りなした。タケも必死で天野を説得した。
このあとも――タケがトンチンカンで与三郎が爆発しそうになる実に愉快な――悶着が続いたが、結局、タケが300万円で村のバスの命名権を買い取るという形になった。
というわけで、かむろば村営バスが新たに買い入れられ、タケがバスに施す名前やスローガンのディスプレイを思いのままにできることになった。
こうしてバスのボディには、 「かむろば村営バス ほでなす号」 「なにも売らない。なにも買わない。ただ生きていく」という訳のわからない表示が施されることになった。
この話題は感動と評判を呼び、県全域をカヴァーするテレヴィ放送局がバスの運行開始式典を中継放映することになった。
テレヴィ局の女性レポーターが、命名権を買い取ることでバスの購入費を用意したタケにマイクを突きつけてインタヴュうした。
タケは相変わらずトンチンカンな受け答えをする。
「ほでなす号」という名称について、由来を問われたタケが満足そうに笑顔を見せると、天野が突っ込みを入れた。
「わかってんのか、おめえ。『ほでなす』っていうのは『バカ』っていう意味だかんなー」
「なあんだー、てっきり『がんばれ』という意味かなんかだと思ってました」と苦笑いするタケ。
ところが、このテレヴィ中継の前日、300万円を差し出したタケの金銭感覚がおかしいと言って、青葉はボロ家から出ていってしまった。しかも、家に置いてあった預金の残りのなかから100万円を額の傷の慰謝料として持っていった。
青葉との性生活に大きな喜びを感じていたタケは大きな衝撃を受けて荒れた。
そこにやって来た天野に「亜希子さんとドライヴ・デートさせろ」と迫り、逆にボコボコに叩きのめされた。
そのとき、荒れているタケに天野与三郎は助言した。
「自分が嫌いだったら、俺のように、いっそのこと自分なんか捨てちまえ!」と。
ともあれ、というわけで、傷だらけの顔でタケはテレヴィ中継の画面に映ることになった。
しかし、それにしても村営バスが「バカタレ号」とは……!? タケのトンチンカンな性格にぴったりの命名ではないか。