さらにところが……、 この中継シーンをテレビ画面越しに見つめている人相の悪い男、多治見がいた。天野与三郎とは深い因縁のあるヤクザだ。不気味な笑いを浮かべて、天野への復讐を誓っていた。
このゲスな悪役を演じるのは、この映画の監督も務める松尾スズキ。
その頃、「スーパーあまの」は近づく村長選挙を祝って特別セールを開始した。店先に「村長選挙記念セール」の幟をたてた。
そんなある日、天野が店に戻ってみると、その幟がズタズタに破られていた。しかも、店先に置いていた特売用玉ねぎに大きなミミズが何十匹もたかっていた。陰湿な嫌がらせだ。
与三郎は亜希子に誰かが訪ねてきたかと聞いた。すると、昔の知り合いだと名乗った男が、お祝いに箱入りの新巻きザケを置いていったという。 ところが、そのサケは腐っていて異臭を放っていたため、亜希子は箱から出してゴミ箱に入れたのだという。
サケが持ち込まれたということから、天野は誰が来たのかわかった。多治見だ。
かつて与三郎は東京の警察で暴対係の刑事をしていた。そのとき与三郎は恋人をヤクザによって凌辱され、やがて殺された。誰が直接手を下したかは不明だったが、命じたのは多治見であることは明白だった。
というのは、天野は多治見の犯罪を追及し、組織を壊滅させるべく追い詰めていたからだ。
逃亡した多治見を北海道の漁港まで追い込んだ天野は、襲撃してきた多治見の首を凍結したサケを振り回して反撃して、死ぬまで治らない頸部損傷を負わせた。そのまま、裁判を受けて多治見は刑務所送りになった。
ところが、天野与三郎は多治見の罠にかかり、恋人を殺した容疑者の濡れ衣をかぶせられ、容疑者として追われることになった。
逃亡生活を続けていた天野は、いつしかかむろば村に来た。
そこでなかぬっさんと出会い、すべてを捨て自分を捨てて行き直してみろと言われ、自分を捨てて過疎化と高齢化が進む村の人びとにひたすら奉仕する道を歩むことになった。
そして、「かむろば村の神様」なかぬっさんの推薦で村長選に立候補し当選した。
村長になった天野は、かむろば村が隣接する青石市との吸収合併に反対し、自立の道を追求した。
というのは、この合併運動を指導する青石市の市会議員、青砥が企んでいる陰謀を――たぶん、なかぬっさんからの情報として――知ったからだろう。
青砥の陰謀とは、青石市は廃棄物処理場の立地選定に悩んでいて、合併ののちには「かむろば村」に巨大な廃棄物処理場を建設しようという企みだった。背後で大きな利権と金が動いていた。
その巨額の金が青砥の手を経て刑期を終えて出所した多治見に渡り、天野への復讐戦を挑ませ、村長の座から引きずり落そうという陰謀が企てられたのだ。