その巨額の金の一部が青砥の手を経て刑期を終えて出所した多治見に渡り、天野への復讐戦を挑ませ、村長の座から引きずり落そうという陰謀が企てられたのだ。多治見は天野与三郎にさまざまな陰険な嫌がらせを仕かけていく。
ある日多治見は、村営バスの運行業務で天野が家を出ているときに、「スーパーあまの」に押し入ってタケを叩きのめして、シャワーから出て着替えたばかりの亜希子を拉致していった。
店を手伝いに来たいそ子が、倒れていたタケを助け起こして、多治見による亜希子拉致の事件を聞き出した。
しかも、その陰謀の末端はチンピラの青木にも絡んでいたようだ。天野の目の前に青木が新しいGTRに乗って現れて逃げ回り、追いかけさせ、交番に逃げ込んで天野を暴行罪で逮捕させたのだ。
そのまま天野は青石市の警察署に引き渡され、刑事たちによって恋人殺害の容疑でも執拗に尋問されることになった。
刑事犯として拘束された天野は、今度の村長選挙に立候補することができなくなってしまった。
一方でこの間に、青砥は村助役のまじめ一徹人間、佐藤伊吉を丸め込んで、村長選挙に立候補させた。
伊吉は前々から、村の財政危機や高齢化をひときわ心配し、村長に青石市との合併に踏み切るように説得していた。もちろん、伊吉としては、青砥の企みを知らない。ひたすら善意で、村民の福祉水準を守るために合併が必要だと考えているのだ。
しかし、ひとたび懐柔し丸め込んでしまうと、青砥は伊吉を自分の息のかかった子分あるいは傀儡として動かそうと露骨に介入しようとしてきた。
伊吉は村長選挙に強い意欲を抱きながらも、青砥の野望に少しずつ感づき始めていた。
さて、多治見に拉致された亜希子を助け出すために、タケといそ子は村中を探し回った。やがてタケは、多治見が亜希子をタケのボロ家に拉致したことをつかみ、家に戻って多治見に預金の残りの札束を渡して「天野から手を引いてくれ」と頼み込んだ。
けれども、歪んだ復讐心に燃える多治見はいきり立つだけだった。
追い詰められたタケと亜希子。
だがそこに、板前の勝男が現れ、多治見の背後に立ち、ゴルフのクラブを思い切り振り下ろして頭部を打ちのめした。ふつうの人間なら、このときに即死するだろう。それでも多治見はゾンビのように起き上がり、アーミー・ナイフを振りかざした。
このあとの数瞬のシーンが笑える。
そのとき、タケは亜希子の上体をぐるぐる巻きに縛っている紐を解くことができずにいた。多治見が大きなナイフを振り上げたのを見て、逃げるどころか――亜希子を縛っている紐を切ろうとして――「あっ、そのナイフ貸してください!」と多治見に近づこうとしたのだ。
この場面は、状況をまるきり読めないタケの性格を戯画的に描いたのだ。つまり、多治見がタケたちを殺そうとして振り上げたナイフを、タケは紐を断ち切るための道具として、借りようとしたわけで、危機迫る状況をまるで理解していない。つまり紐を切る道具を探そうとするタケは、視野狭窄に陥り、そのナイフが自分たちを襲おうとする凶器だとは認識できないのだ。
「バカ野郎、貸せるわけねえだろう!」といきり立って襲いかかろうとする多治見の顔を、勝男は横スウィングしたクラブで思い切り殴った。多治見は昏倒してしまった。
こうして亜希子を救出できた。
ところで、勝男は以前、多治見の子分だった。しかも、組長である多治見の命令でかつての天野の恋人を凌辱し、殺したのだった。両頬の傷跡は、恋人殺しの首謀者を勝男から聞き出そうとする天野によってつけられたものだった。復讐というか拷問の結果だった。そのとき、勝男は両頬を抉られながら沈黙を守りとおした。
だが、やがて勝男は改心し、恋人殺しの冤罪から逃げた与三郎がいるかむろば村にやって来て、天野に真相を打ち明けた。その勝男を天野は許した。そのうえ、伊佐旅館の奈津の下で働けるように心配してくれた。こうして、勝男は更生したのだ。
ところが、村長選挙が始まる直前に与三郎が恋人の殺人容疑で警察に逮捕されてしまった。与三郎の恩を深く感じた勝男は警察に自首した。こうして、殺人事件の真の実行犯が逮捕されたことで、天野の冤罪は晴れ、釈放された。