さっそくその夜から、テッドは大混乱に陥っていく。そして、混乱して飛び出していったジョアンナが戻ってくることを期待している。そのために、近所のシングルマザー、マーガレットに電話して、行き場を失ったジョアンナが立ち寄ったら電話をくれと頼む。
テッドは、このところ会社の仕事に没頭していて、ジョアンナを気づかうこともなく悩みの相談に乗ることもなかった。ジョアンナの突発的な行動にいく分は反発しながらも、放ったらかしにしてきたことを反省する。
それでも、落ち着いたらジョアンナは戻ってくると期待していた。
ところが、妻と母親の役割を果たしていたジョアンナがいない生活を始めてみると、ビリーの世話や家事ではいくつもの困難が待ち構えていた。
会社では、テッドの昇進後の仕事の進め方について副社長を話し合うことになった。その場で、テッドは副社長にジョアンナの別居のことを話した。テッドは気軽に実情を話したが、副社長は、テッドを抜擢した手前、今後の仕事振りについて不安を抱いていた。
「酷な言い方だが、ビリーは親せきに預けた方がいい。ビリーの面倒まで見ることになったら、アトランティック社を相手の仕事に差し支えるぞ」とアドヴァイスした。
つまり、これまで以上に仕事の没頭してほしいという要望だ。テッドの今後の業績を踏み台に、副社長自身が車内の権力闘争で勝ち上がっていくつもりなのだ。
そのときは、テッドは楽観的な見通しを持っていた。
ジョアンナは帰ってくるだろうし、当分はビリーの子育てと仕事との両立は可能だと考えていた。
■ジョアンナからの手紙■
まもなくジョアンナからビリーあての手紙が届いた。こんな文面だった。
「ママは少し混乱して家を出てしまいました。というのは、ママは自分の人生を考え直そうとしているからです。やりたいことがあるのです。
ビリー、あなたを置いて出ていってしまったことは、ごめんなさい。でも、私はいつまでもあなたのママで、ずっと愛し続けます…」
要するに、戻らないことがわかったのだ。
夜にテッドがジョアンナの手紙をビリーに読んでやろうとしたが、ビリーは拒否した。聞きたくない、と。ビリーは母親から捨てられたと落胆しているのだ。その手紙を「あとで落ち着いたら読もう」とテッドが提案したが、ビリーはやはり拒否した。
で、テッドは決心して、家中からジョアンナを思い出すような品物を撤去して、段ボール箱に詰め込んでしまった。ジョアンナの写真や化粧品、ミシンや小物入れの小箱などを。
それは、一面では、ジョアンナに捨てられたと思い込んいるビリーのために母親を思い出す品物を住居から一掃するためだったが、他面では、自分の気持ちの整理をつけるためだった。というのも、テッドは仕事に没頭してジョアンナをスポイルしてしまったが、今でも彼女を思い切ることができなかったからだ。
■会社でのテッドの窮地■
会社でのテッドの仕事振りは、副社長が心配したとおりになってしまった。
まず買い物とかビリーを学校に送ることで、会社に遅刻する。すると、だいたい朝一番の企画会議に遅れることになる。社長や副社長たちが参加するプレゼンテイションの開始時間が遅れることになる。経営陣からするテッドの評価は下がる一方だ。