クレイマー、クレイマー 目次
離婚騒動と子どもの立場
原題と原作
見どころ
あらすじ
ジョアンナの決断
追い詰められるテッド
人生観・価値観の転換
ジョアンナのビリーへの想い
親権裁判
ジョアンナの証言と反対尋問
証人席のテッド
ビリーの悲しみ、そして和解
《女性の自立》に関する考察
「女性の自立」と「人間としての自立」
ジョアンナ、そして時代背景
生物史・進化論における男と女
おススメのサイト
異端の挑戦
炎のランナー
医療サスペンス
コーマ
評  決

●「女性の自立」と「人間としての自立」●

  ところで、この物語の主人公の名前のテッドとは、前に注釈を入れておいたが、一般に「セオドア(テオドル)」というパースナルネイムの略称・愛称で、ヨーロッパ――ことにイタリアなどラテン系地中海地方――では「ドイツ人」「テュートン人」という意味がある。テッドは本来「テデスキ ―― thedeschi / tedeschi :17世紀までは使われてた古イタリア語――」の略称なのだが、テデスキとはテュートン=トイトン=ドイッチュ」のイタリア語訛りである。
  だから、その昔は「テディーベア」と言えば、ドイツの農婦がつくった素朴な熊人形を意味していた。
  で、「クレイマー」というファミリーネイムは、ドイツの「クラマー Kramer 」「クレーマー Krämer 」のイングリッシュ表記である。したがって、テッド&ジョアンナ(ドイツでは「ヨハンナ」)・クレイマー夫妻は、ドイツ系(おそらくユダヤ人系)の子孫であろう。
  そして都市に住んでいる世俗派=非宗教的な市民なので、考え方はいったいに進歩的であろう。しかし実生活での態度は保守的ということなのだろう。

  そういう人物設定でテッドは会社の仕事に没頭して妻のジョアンナを家事に専念させて顧みない。もちろん、経済的収入のためであり、テッド自身は「妻や子どもがより豊かに生活できるようにするため」に仕事中毒ワーカホリック人間になっているのである。
  そして、男性優位の経済社会・企業社会は、企業(官庁)社会で働きより上位の地位を確保して高収入を得ることに大きな価値を見出す評価基準を生み出した。だから、《男性の自立》とは企業や官庁で有能さを見せつけて経済的収入を増加させることと、密接に結びついてきた。
  そして、やがて《女性の自立》を主張する立場の多くもまた、男性優位型社会の価値尺度をそっくりそのまま継承して、家庭内での家事や育児よりも、企業・官庁社会でしかるべき職と地位を得ることを、女性の自立の有力な指標としてきた。
  というのも、現代の市民社会=資本主義的経済社会では、そこそこの経済的収入がなければそもそも自立した生活ができないからであって、つまりは企業や団体でしかるべき地位に就くということが条件となるからだ。

  私見では、そういう「女性の自立化」とは――男女格差も含めた階級社会で――「女性の男性化」「権力志向化」でしかない――つまり誰かを踏みつけ、シワ寄せ相手にせざるをえない優位争い――とも思える。だが、差別されていた側は一度は、差別していた側の権限や権力を手にしたいと思うのは当然だろう。
  とはいえ、男を「仕事漬け」にしてきた権力システムに順応して競争を強いられる経済社会で過ごしているうちに、それが「女性の自立化」なのか? 権力志向のフェティシズムに女性もとらわれた状況と疑わざるをえない、とも感じられる。
  というのも、私のように意気地なしの男性は、優位を競い合うシステムに疲れ果ててしまっているからだ。問題は「女性の自立」ではなくて、「人間(生物)としての尊厳や生きやすさ」をどうやって手に入れるかではないか、と考えている。


  さて、大学で出のインテリ女性のジョアンナも、70年代のキャンパスでの「女性自立論」やフェミニズムの洗礼を受けて成長してきた。だから、卒業してからニューヨークの高級女性雑誌の編集部に就職して企画デザイナーとして勤務していた。
  そういうキャリアを持つ女性なのに、テッドと結婚すると家事と育児に専念し、そうすることで、テッドが働き蜂になって早朝から深夜まで仕事のことしか考えない生活スタイルを支える「内助の功」を務めてきた。それが、当時まだ続いていた大都市での「富裕な中産階級」の旧来からの生活スタイルだった。
  テッドといえば、世界観(公式見解)としては「女性の自立」賛成派なのだが、実生活ではジョンアンナを家庭に閉じ込めて平然としている――問題意識を感じないのだ。つまりは、世界観と人生観=処世観がかなりずれていることに気がつかない。

もっとも大半の男はそういうものだと、私も今さらながら反省している。反省しているが、子どもの頃からの家事全般に関する目配り・手配りの訓練が女性に比べて行き届かないものだから、気がつかないことが多い。つまり、結果的に家事・雑用を女性にやらせてしまうことになりがちだ。だから、女性から見れば、私は本音では「女性の自立」に賛成していない立場にあると言われても仕方がない。

前のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界