ミッシング 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
軍事クーデタ
アジェンデ政権の苦難の出発
差し迫る経済危機
急ぎすぎた国営化
軍部の動向
クーデタと戒厳令
チャーリーの失踪
チャーリーの父親
浮かび上がる実情
「知りすぎた」チャーリー
恐ろしい「真相」
対   決
チリ「反革命」の構図
政権と軍産複合体の危機感
アメリカ社会の亀裂と「遊民」
「チリ革命」を考える
国有化と計画経済
兵営化した経済計画
チリの状況
「社会主義」は可能か

浮かび上がる実情

  一方、在外公館筋とは別に、2人は独自にチャーリーの隣人たちや友人、知り合いを訪ねて手がかりを得ようとした。
  チャーリーとベスが暮らすアパートの近隣の人びとは、ベスが出かけた日に軍が2人の部屋の家宅捜査に訪れ、種類などを押収し、チャーリーを連行していった事実を告げた。そして、隣人の娘は帰宅途中、チャーリーを乗せた軍のトラックが国立競技場(サッカー場)に入っていったのを目撃したという。
  ところが、大使館・領事館のメンバーは、チャーリーが軍事政権によって逮捕された様子はないと言い続けた。駐在武官は、チャーリーの捜査の継続に迷惑そうな顔つきさえした。

  2人はチャーリーの友人の1人で、軍に連行されたが、運よく釈放されたジャーナリストのデイヴィッド・ハロウェイに会った。彼は先日の夜、同居している同僚、フランク・デルージとともに軍に拘束され、国立競技場に連れて行かれた。競技場には、国籍を問わず、多数の人びとが拘束・収用されていた。多くは夜間外出者だったが、なかにはアジェンデ政権を支持した人びとや芸術家、インテリ、そして貧困な下層民衆のために活動していた人びとだった。
  彼らは競技場の観客席やロビーなどにすわらされていた。兵士たちは、特定の人びとをそこから別室に連行した。そこで残酷な拷問や処刑(射殺)を繰り広げていたのだ。ときおり、くぐもった悲鳴が聞こえ、銃声が轟いたという。フランクも連れて行かれた。
  デイヴィッドは恐怖の一夜を過ごしたのち、早朝に解放された。フランクは、軍の説明によれば釈放したというものの、あの夜以来、彼を見かけた者はいない。
  チャーリーもフランクも、死亡者リストにも、各病院の入院患者(負傷者)リストにも名前はなかった。


  ところで、エドが出会った人びとは、チャーリーはきわめて穏健で、左翼政権を支持したわけでもなく、むしろ周囲からは保守的なアメリカ人と見なされていた、と語った。そして、誠実で良心的な人柄が信頼されていたという。
  むしろ、駐在アメリカ海軍大佐などとも気軽に話し合うような人物だった。
  エドが一方的に決め付けていたような「跳ね上がった若者」「過激派」「左翼」ではなかった。

  パットナム領事は部下の書記官をエドとベスの案内役にして、病院などでの調査に同行させた。
  エドは、チャーリーを見知る人びとを訪ねて回るうちに、ピノチェト軍事政権の暴虐ぶりや抑圧の実態を知ることになった。そして、街中を移動するとき、あるいはホテルや病院などの行き帰りに、あちこちで爆音や銃声が響き、軍用車両や軍用ヘリコプターが路上の民衆に向かって無慈悲な銃撃を仕かけている現実を、まざまざと見せつけられた。
  だが、大使館筋はあまり真剣にチャーリーの行方の調査を進めているようには見えなかった。ただ、競技場への立ち入りと調査や尋ね人の呼びかけの許可を取り付けてくれた。エドとベスは競技場に赴いたが、徒労に終わった。
  大使館筋は、はじめ、チャーリーが左翼に味方して自ら身を隠してるのではないか、というようないい加減な憶測を伝えた。やがて、彼らは、「政変」にともなう逮捕者リストや死亡者リストには名前がないと言い張り続けるようになった。

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