ミッシング 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
軍事クーデタ
アジェンデ政権の苦難の出発
差し迫る経済危機
急ぎすぎた国営化
軍部の動向
クーデタと戒厳令
チャーリーの失踪
チャーリーの父親
浮かび上がる実情
「知りすぎた」チャーリー
恐ろしい「真相」
対   決
チリ「反革命」の構図
政権と軍産複合体の危機感
アメリカ社会の亀裂と「遊民」
「チリ革命」を考える
国有化と計画経済
兵営化した経済計画
チリの状況
「社会主義」は可能か

対決 アメリカ民主主義の裏側

  翌日、エドは大使館から呼び出しを受けた。
  行ってみると、大使と領事は、武官とともに1人の「証人」をともなっていた。その男は、知り合いの男が、チャーリーを安全な場所に送り届けたのを知っていると述べた。チリの北部に逃れさせ、国外脱出、アメリカへの帰国を準備中だという。
  どうやら、大使館筋はあくまで軍事政権によるチャーリーの逮捕と拷問、処刑の事実を隠し通したいらしい。エドは憤慨して、9月19日にチャーリーが虐殺されたことを知っている、証拠がある、と突っぱね、真相の究明を要求した。エドは、本国司直への告訴も辞さないという圧力を加えた。
  パットナム領事は、ようやく事実の隠蔽工作の無駄を悟り、チリ軍部との連絡回路を開き、チャーリー虐殺をめぐる詳しい経緯を調べ始めた。

  何と、チャーリーの死体は、虐殺後、壁に塗り込められていたという。やがて、本国に送り返されたチャーリーの遺骸は風貌や体格の見分けがつかないほど傷んでいたという。
  大使と領事、そして武官は、「国民=国家として」のアメリカの権益を守るためには、きれいごとは言えない、余計なことに端を突っ込むアメリカ市民には手を焼く、と言い抜けた。クーデタはアメリカの権益を守るために必要な(当然の)活動だ、と言わんばかりだった。そして、アメリカ人個人の生命や権利なぞは、取るに足らない、と。

  言いようのない悲しみと怒りを抱えてエドとベスは帰国した。
  エドは、パットナム領事とタウアー武官を告訴し、チリの軍事クーデタをめぐる政府の秘密工作とアメリカ市民虐殺の容認を追及して、法廷闘争を始めた。
  だが、やがてアメリカ政府は、チリの政変をめぐる一連の事件・事実はアメリカ国家の安全保障を守るための機密に直結するものだとして、一切の訴訟ないし事実の公表を拒否できるという決定(大統領行政令: administrative order of presidency )を下した。それ以後、事件は封印されてしまった。

  大統領に途方もなく巨大な権力が集中されている合州国では、このようにファシズムともいうべき状況が短期的に出現することがある。たとえば、マッカーシズムの時代とニクスン政権時代。ニクスンは政権維持のためのいくつもの謀略を企図したが、ついにその1つが「ウォーターゲイト事件」で暴露され失脚し、このファシズム状態は終わりを告げた。
  だが、この政権の期間中に、政権の強硬策によって、東南アジアやラテンアメリカで何千、何万人もの命が抹殺されることになった。

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