ミッシング 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
軍事クーデタ
アジェンデ政権の苦難の出発
差し迫る経済危機
急ぎすぎた国営化
軍部の動向
クーデタと戒厳令
チャーリーの失踪
チャーリーの父親
浮かび上がる実情
「知りすぎた」チャーリー
恐ろしい「真相」
対   決
チリ「反革命」の構図
政権と軍産複合体の危機感
アメリカ社会の亀裂と「遊民」
「チリ革命」を考える
国有化と計画経済
兵営化した経済計画
チリの状況
「社会主義」は可能か

政権と軍産複合体の危機感

  というのは、
  この時期、アメリカ社会には政治的に大きな亀裂が走り、いくつもの論争のタネが転がっていたからだ。ことに1973年には、ニクスン大統領によるマスコミ封じ込めの「陰謀」=ウォータゲイト事件が大々的に批判され、政権は末期的状況を呈していた。翌年早々にニクスンは辞任する。
  そして、ヴェトナム戦争はいよいよ泥沼化していた。ヴェトナムからの完全撤退は、この2年後だった。
  ニクソン指導の超保守=右翼政権は、合州国の内部でも、世界的規模でも、反左翼・反社会主義の狂信的なスローガンを掲げて、強硬な戦略・戦術を展開していた。しかし、伸びきった戦線のあちらこちらで手詰りが生じていた。政権構想全体を見直し、再構築しなければならなくなっていた。
  だが、自ら掲げた旗印が邪魔をして身動きできなくなっていた。

  アメリカの権力中枢である軍産複合体は、しかし一枚岩ではない。政権と癒着したさえいるほどのブロックもあれば、これに批判的な民主党に近いブロックもあるし、複合体の内でも企業群は互いに競争している。
  だから、ニクスン政権が倒れても、軍産複合体そのものは揺らぐことはなく、別のブロックが最優位を確保して新たに権力中枢の座におさまることになる。それが、強みだともいえる。

  すでに政権の戦略や後押しで世界各地の最前線に出向いていたエイジェントたちは、既定の方針に向かって走っていて、ニクスン政権の末期症状をみてむしろ焦りを感じ、「成果」を急ぐあまり暴走を始めていた。
  他方で、アメリカを中心として世界経済は、60年代の後半ないし終わりから長期の景気後退=経済危機にはまり込んでいた。67年にはドルの圧倒的優位を軸とした世界通貨体制(固定的な国際的通貨交換相場)は崩壊し始め、73年にはヨーロッパ諸国家の通貨危機という形態で吹き出た。
  そして、この年、原油・石油価格の高騰が始まった。世界的な景気後退のなかで、全世界の工業と農業、商業の資源・エネルギーの土台となっている石油価格が急上昇を始めた。
  不況と価格高騰が同時に相互制約的に進行した。
  アメリカの政権にとっても、財政基盤は危機に陥り、いかなる政策も財政的な裏打ちを失い始めた。
  それが1973年だった。

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