ボブを捕えるための包囲網が破綻し、反撃を食らったジョンスンは、黒幕の1人、モンタナ州選出の元老院議員、チャールズ・ミーチャムの支援を受けようとした。エティオピアでアメリカ軍に扮装して「汚い秘密作戦」を遂行した傭兵部隊を動員して、ボブを罠に誘い込み殺戮しようというのだ。
ジョンスンが編み出した作戦とは、ボブが目をつけている狙撃屋、セルビアックを囮――ルアー――として、ボブの前に差し出すというものだった。ただし、ルアーの周囲には、屈強の傭兵隊を配備して。
ジョンスンは、下半身不随になったセルビアックを顧問として高額報酬で飼い殺しにしていた。「死に場所」を求めていたセルビアックとしては、その役割を引き受けるしかなかった。拒否すれば、その場で殺されるか、麻酔をかけられて「おとり」にされるだろうから。
というわけで、ボブにセルビアックの潜伏場所についての情報が流された。ボブは、それが彼をおびき出す罠だとわかっていたが、セルビアックを襲撃して捕らえて、暗殺事件に関する真相を聞きだすつもりだった。ただし、敵側の罠の働きを抑え込むようなカウンタートラップを仕かける計画を立てた。
セルビアックは、ヴァージニア州リンチバーグの森林や草原に囲まれた山小屋にいた。ロッジのなかと周囲には5、6人の警護要員が配置され、さらにロッジの周囲の森林には、ロッジから半径半マイルほど離れて円状に20人以上の傭兵隊が潜んでいた。ボブがロッジを襲撃しなかに突入すれば、傭兵たちは包囲網を狭めて押し包んで抹殺する手はずになっていた。
一方、ボブはニック・メンフィスを襲撃作戦の相棒として訓練していた。FBI捜査官として武器の用法や銃撃戦への対策の基礎はマスターしているはずだから、短期間の集中的な訓練で何とかなると考えてか。もちろん、ヴァイオレンス・アクション映画は何ごとも都合よく話の筋が運ぶようになっているのだが。
ボブの特訓のおかげでニックは、とりあえず信頼しうる程度の兵力=狙撃手――同時に爆発物の取り扱い者――になった。彼らは、訓練の前にショッピングモールに出かけて、市販されている肥料や洗剤、揮発性液体などを仕入れて調合し、簡易爆発物を製造した。
さて、ボブとニックはリンチバーグの山小屋を襲撃する作戦を始めた。傭兵たちの包囲網の隙間をついて、いつの間にかロッジに近づいた。そして、大量の爆発物と狙撃銃を入れたバッグを携えて、ボブが姿を樹木や草原に隠したままロッジに接近。包囲網を構築するさいに傭兵が遮蔽物や攻撃地点に選びそうな場所、あるいは不意をついた奇襲的=撹乱的な爆発を引き起こすのに効果的な場所に、爆発物を仕かけていった。
ニックはロッジから離れた(広角的に状況の観測ができる)場所に潜んでいた。ボブの背後を監視したり、州の森林からの攻撃や包囲行動を把握して、無線でボブに伝えたり、自ら援護射撃をおこなったりするためだった。
ボブは警備要員を倒しながら、ロッジに接近して入り込み、セルビアックを捕捉した。セルビアックは、ボブに真相を語った。というのは、ボブをロッジにとどまらせているあいだに、傭兵隊に包囲網を構築させるためだった。囮として殺されるにもかかわらず、ボブに対する狩を助けようとするのは、暗殺者としての自負心のせいだろうか。あるいは死の道連れを求めているのか。