さて、アイザック・ジョンスン大佐の横柄な協力依頼には納得できなかったスワガーだったが、大統領の暗殺阻止への貢献という任務には抗いがたい力があった。「狙撃者の目で」遊説予定の都市を調査してみようかという気持ちが起きてきた。
だが、その前に、自分自身の狙撃手としての技量や勘が錆びついていないか確かめなければならない。そこで、ボブは愛犬とともに森林地帯に分け入って、狙撃標的――ボイルド・コーンの空き缶――を設置した地点から1500mほどの距離から、狙撃を試みることにした。
使用する銃は、バレットM82A3(だと思う)。有効射程:6070フィート(1820m)の長い銃身のライフルだ。
照準を定めてトリガーを引いてから4秒後くらいか、標的の空き缶が吹き飛んだ。何しろでかい弾丸だから、缶は粉微塵に吹き飛び、周囲の雪も吹き飛ばした。
標高の高い山河地帯での射撃だ。気圧が低いから弾丸に対する空気抵抗も小さいが、大気圧も小さく(酸素濃度も低い)薬莢火薬の爆発圧力(膨張インパクト)も小さいので、発射から着弾までの時間は、低地での射撃と大差ないのかもしれない。
映像で見る限り、この銃による射撃の銃弾の平均速度は、だいたい音速と同じか、わずかに速いくらいだろう(秒速340〜380m)。
狙撃手としての能力は落ちていないようだ。
ボブは犬の世話を知り合いに頼み、旅行支度を始めた。
首都DC、ボルティモア、フィラデルフィアを回り、大統領の演説予定場所とその周囲の状況を把握・分析してみた。狙撃可能な地点を割り出すためだ。
演壇までの空間に建物や樹木などの遮蔽物がないこと。そして、1500m前後の距離を置いて、10mくらいの高さのある建物、つまり射撃場所となる空間があるか。やや俯角となる場所。そこは、演壇までの空間を広く見渡せるか。そして、狙撃後、撤収・逃走の経路が確保できるか。などなどを調査してみた。
その結果、狙撃可能な場所が得られるは、フィラデルフィアしかないことがわかった。射撃場所は、使われなくなった聖堂の鐘楼。射程はおよそ1640m。バレットM82A3またはM102以上の性能の銃なら狙撃可能だ、と。
ボブはワシントンDCに行き、ジョンスン大佐に調査結果の報告をした。報告を終えて山に帰ろうとすると、大佐から次の仕事を依頼された。 「当日、対狙撃対策の分班が待機するビルのフロアにいて、シミュレイションのプロッター――狙撃作戦を想定した対策立案者――をやってくれ。風速や湿度、温度、気圧などの気象条件から、狙撃者がどう行動するか割り出して、警護犯に随時伝えてくれ。その報告にしたがって防護対策を取るようにする」と。
仮にあの鐘楼に遠距離射撃用の銃を置いて狙撃した場合を想定してのスポッティングということだ。