これだけ微妙で繊細な作業をおこなうわけだから、狙撃手には、きわめてすぐれた身体能力(動態視力を含む)や筋肉、繊細な感覚や思考力、集中力などが要求される。
長時間にわたって潜み、射程圏内への標的の出現を待ち続ける場合もあるだろう。もちろん、敵地に入り込んでの狙撃と生還のために、高度のサヴァイヴァル術も訓練される。
射撃にさいしては、恐ろしいほどの集中力が要求され、かつまた冷静沈着に銃の操作をおこなう必要がある。そして照準を合わせたら、自分の身体で銃身を固定・安定させる筋肉の強さとしなやかさ、しかも機敏に銃の向け先を転換できるような俊敏な反応も要求される。
だから、当然のことながら、素質や才能がある者を選抜して育成・訓練することになる。実戦に配備される狙撃兵は、厳しい選抜や試練を通り抜けたきわめて少数の精鋭だけだ。
だが、そういう彼らでも、戦場や狙撃フィールドでは、ことに待機中は、自分の集中力と適度な緊張を保つために、食糧や飲料の摂取を厳しく管理しなけれならない。肉体的・精神的状態の管理のためには、脈拍や血圧、血糖値、神経の反応速度をつねに一定に保つために、こうした生理的条件を変動させる物の摂取は、厳重に禁止される(節制と自己管理)。
普段からタバコ(ニコチン)やカフェ(カフェイン)がダメなのはもとより、狙撃の準備態勢に入ってからは、ブドウ糖(糖質)を含む食べ物や飲み物、アルコール飲料は論外だ。ニコチンやカフェインだけでなく、ブドウ糖・糖質の摂取もまた、血糖値や血流量、血圧を変えてしまうからだ。それによって、集中力は制約され、神経の反応速度も変わってしまうのだ。
だから、喫煙習慣のある者、アルコール好き、間食習慣のある者は、狙撃手にはなれない。だから、ついでに言うと、マンガの『ゴルゴ13』(デューク・東郷)は喫煙習慣があるので、現実には狙撃屋にはなれない。
待機の状態で数時間から1日以上、潜伏し続けることを要求されることもあるという。もちろん、待機の状態から外れて休憩や栄養・水の補給をすることもるだろうが、その場合は、「平常」に戻るまで、狙撃待機モードから外れることになり、標的の狙撃はおこなわない。
この作品でボブ・リー・スワガーを演じるマーク・ウォールバーグは、海兵隊員のなかではやや小柄な身長だが、引き締まった筋肉質の体つき。狙撃兵に多いタイプだという。彼の演技は、ぶっきらぼうだが、繊細さと知性を感じさせる。
腕やことに太腿の筋肉が発達している。太腿の筋肉は、血液=酸素を溜め込む「貯水池」の役割を果たす。そのため、心臓の負担を軽減することができる。ウォールバーグは、狙撃兵にとって理想的な体形といえるかもしれない。