さて、米軍のステルス爆撃機編隊が都心部でゴジラに対してバンカーバスター攻撃をおこなう作戦が公表されてから、内閣は一帯の住民に緊急避難を指示誘導し、政府と中央官庁人員の緊急避難を始めた。
首相をはじめとする主要閣僚や有力官僚らは立川市の緊急災害対策本部に大型ヘリで避難することを決めた。他方、矢口や研究班はクルマで移動することにした。
とはいえ、やたらと忙しい中央官庁や都心部の企業に勤務する人間たちがただちに避難できるはずがない。あらゆる道路は避難しようとするクルマで渋滞し、身動きが取れない立ち往生状態だ。
矢口はクルマから降りて地下街や地下道への避難を決め、路上のクルマに乗っている市民に地下施設への避難を指示した。
そんなところに、ゴジラの足音の地響きが近づいてきた。夜の闇に包まれた上空にはステルス爆撃機編隊が迫っていた。
その爆撃機は、地上の住民の避難完了も確かめることなく、ゴジラへの攻撃(第一波爆撃)を開始した。バンカーバスター弾はすべてコンピュータ誘導でゴジラの頸部から背中にかけてピンポイントで撃ち込まれ、その表皮に突き刺さって爆発した。ゴジラの表皮組織の一部が吹き飛んだが、さしたる損傷を負わせたわけではなさそうだ。
しかし、ゴジラは敏感に反応した。
鱗の隙間から見える表皮の赤い輝きが増したかと見るや、ゴジラは口を大きく開いた。何と下顎も左右に割れて開いた。すると、喉の奥から炎とともに熱核光線が吐き出され、またたくまに熱核光線の照射が始まった。
品川から港区、千代田区のビル街が炎に包まれた。
さらに、ゴジラの身体の側面や背中側から何十本もの熱光線が空に向かってあらゆる角度に放射された。その姿は、どこまでも棘が伸びていくハリネズミのようだった。
ゴジラは体側や背中にもレイダーあるいは視覚機能があるのか、熱光線はステルス爆撃機と投下された爆弾をすべて正確に撃ち落としてしまった。
ゴジラは日本の自衛隊の攻撃――ゴジラにまったく損傷を与えなかった――に対してはほとんど無反応で、ただゆったりとものぐさそうに歩くだけだった。ところが、けた違いの破壊力を備えた米軍機の攻撃で身体に軽微な損傷を受けるや、恐ろしい反撃を開始した。
このときはじめてゴジラは凶暴性というか破壊性を表したというべきだろう。これは、映画制作陣の隠喩だろうか。
つまり、日本が国土防衛のために、自衛隊の限定され抑制された攻撃力をもって単独で立ち向かってきたときには、ゴジラはほぼ無反応だった。ところが、日米安全保障条約にもとづく米軍の攻撃が始まるや、攻撃性と凶暴性を剥き出しにしたのだ。
それではまるで、安全保障条約と日本の対米従属性への憤懣を暗示するようではないか!? ゴジラは安全保障条約にもとづく軍事力――アメリカに支配に従属する日本――の展開が脅威となると知るや、俄然、その内なる凶暴性と破壊性を発現させたというわけだ。
とはいえ、ゴジラの身体そのものの動きは相変わらず緩慢でものぐさそうだった。口や体側・背中、尾の先端からは熱核光線が放射され、上空の爆撃機を破壊し、高層ビルを切り裂きなぎ倒していくのだ。鈍いほどに穏やかな身体の動きと対照的な熱核光線の破壊力!