シン・ゴジラ 目次
政治劇のテーマ…ゴジラ
見どころ
謎の巨大海洋生物の出現
「ものぐさ巨獣」の退散
多摩川の「決戦」
アメリカの動き
ゴジラのエネルギー代謝
恐るべきゴジラの反撃
内閣(政府中枢)の消滅
熱核攻撃まで15日
ヤシオリ作戦
ゴジラ凍結!
政治劇としての印象
ゴジラの形状特徴について
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ゴジラ&怪獣映画
風の谷のナウシカ
2014年版ゴジラ

政治劇としての印象

  映画作品というものは、制作された当時の時代や社会状況を多かれ少なかれ、何らかの形で反映するものだ。では、『シン・ゴジラ』が制作され公開された2010年代半ばの時代状況とはどういうものだろうか。時代状況の何がどのように反映されているのだろうか。
  2016年の公開から1年後の現在から振り返ってみよう。
  ここでは、この作品がゴジラを材料として描かれた政治=軍事スリラーであるという性格づけの観点から眺めてみよう。
  2007年から始まった世界不況の荒波に飲まれた日本は、2011年の大震災以降、経済的停滞が続いている。その後も各地で地震や災害が頻発して、地震と津波による国土の破壊のトラウマを引きずったままの状態にある。
  東京湾の河口から河川や運河沿いにゴジラによる破壊と混乱が進むあの場面は、まさに津波による生活環境の崩壊を彷彿とさせるではないか。

  一方、政治の世界では当時、アメリカへの依存性=従属を国民国家である日本の最大のアイデンティティ要因だとする安倍政権は高い支持率を維持し続けて、「栄華の極み」にあったように見えた。だが、「安倍一強」という政治状況は、民主党の無能力ぶりが明らかになって以降、政治的には「ほかに選択肢がない」という袋小路を意味する。
  それでも「安倍一強」状態のもとで、この映画で保守党=政権党の若手層の卓越したリーダーシップで、危機管理とゴジラ撃退作戦を着々と進めていく姿は、あたかも政権への側面支援であるかのような印象を与えた。

  そして、ゴジラを撃退し破壊された首都と国土を再建していく展望も開かれたかのように見える。つまり、2011年の東日本大震災後、経済的停滞が一段と深刻化した日本も「まだまだやれる」という印象も与えたかのようだ。
  この映画は、ゴジラ出現というような突然の危機状況が勃発しても、危機管理政策を何段階にもわたって打ち出していく日本の政権党(保守党)の総体としての統治能力の高さを描いているように見える。
  だが、詳細に見ていくと、右往左往、動揺する政権党の危機管理対策に対応していく、日本の経済や行政の柔軟な構造こそが描かれているのではなかろうか。

  あれこれの――たとえば大量のゴジラ血液凍結剤を緊急に製造できる――態勢をくみ上げる企業や行政の「製造現場」あるいは「現場」、つまりは人やモノや情報を動かす社会組織の対応能力の高さを描いていることがわかる。この映画では、現場の実務者たちの「横の連隊」は描かれるが、経営陣どうしの協力の場面は描かれない。
  成熟した日本の経済構造は、無能で硬直的な上層部の関与を切り離せば、意外と柔軟に危機に対応する能力を備えているのかもしれない、と。存亡が問われるような深刻な危機には現場がどうにか対応できそうだ、と。その一方には、見せかけの業績にばかり気を回す経営陣の無策無能があるのだが。
  「上に甘く、下に厳しい」企業組織や行政組織の硬直性により対応が鈍く、停滞を克服する手立てを見いだせずにいる。これがもう反面の事実だ。

  政権党は、そういう社会構造の上に乗せられて機能しているにすぎない。だから、旧弊や硬直性の担い手である政権党の主要閣僚や重鎮が一掃されると、若手が結集・協力して危機管理とゴジラ撃退作戦を展開できたのだ。
  しかも、この物語で活躍するのは、政権党や省庁のエリート幹部におもねり忖度する悪弊を拒否する異端児たち、無難な「右へ倣え」を拒み自分の独特の考えを曲げない異端者たちだ。
  首相への忖度や阿諛追従に汲々としながら行政の不公平・不公正(えこひいき)な判断や裁量を平然と進めるような官僚たちではない。

  権力にすり寄る者たちの忖度や阿諛追従で絶頂の極にあった安倍政権が今や、「森友学園問題」やら「加計学園問題」「防衛省報告書問題」やらで窮地に追い込まれて状況とは違う。
  この物語の登場する保守党政治家たちは、なるほど日頃権力闘争や出世争いにあくせくしているのだろうが、だが現実の政治家たちとは抱く矜持が異なっている。
  映画の制作陣は、保守政権党の閣僚や領袖の描き方において彼らは「まあこんなものだろう」というリアリストの割り切りも見せながら、他方で、せめて「こうあってほしい」という理想像を散りばめているのだろう。

  それから1年後、政権、というよりも首相自身の身から出た錆で「信頼の危機」に陥った現在の状況を踏まえて『シン・ゴジラ』を観ると、じつに不思議な感懐が湧いてくる。

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